第275話 ヴィリ


「普通ではない?」


 義久は怪訝けげんな顔で聞き返す。その反対に浅木博士は顎に手を当て、ふむふむと頷く。


 ちなみに篠宮はアホの子の顔で突っ立っている。


 サクラはその篠宮のアホづらをちょっとかわいいと思った。そのアホの子から目をらすと、再び口を開く。


「……普通ではない、というのは通常のテラヘルツ光に宇宙放射線に似た放射線を照射し、重力波に似たバンドでワームホールの入口を捕らえて拡大するからだ。そのテラヘルツ光を我々は仮称で『ヴィリ』と呼んでいる」


「『ヴォイド』に『ヴィリ』か。Vが重なるな」


「仮称だ。商品名はお前が考えればいい」


 サクラは義久にそう言った。そこへ篠宮が手を上げる。


「はい、質問! それがあればどこでも行けますか?」


「今のところは無理だな」


「ちぇっ、サクラさんの家にいつでも行けると思ったのに」


「つかっちゃん、何を言う! そんなくだらない事に使えるほどコストは低く無いぞ」


 義久は篠宮を黙らせると、すぐに質問に入る。


「『ヴォイド』の出入り口はどのくらい広げられる?」


「エネルギーさえ有れば幾らでも」


 そう、そのテラヘルツ光『ヴィリ』を作る為のエネルギーさえ有れば、理論上は惑星でも『ヴォイド』を通して移動させる事は可能だ。


 理論上は。


「なんてこった。僕はこちらの実験にも興味が出てきたぞ」


 浅木博士は白衣を翻しながらくるりと回る。


「義久君、僕もそちらのプロジェクトに参加したいなぁ」


 義久は伯父をちら、と見やると、めんどくさそうに首を振った。


「ダメですよ、今回帰国したのは別件なんだから」


「すぐに終わらせるよ。だいたい鴫原さん達が邪魔しなければ、僕はここで研究を続けられたんだ……」


 ぶつぶつとそう言うと、浅木博士は廊下に控えていた警備部の日和田ひわだ達に命令を出した。


「早く捕まえてきてよ。α体のNo.6だよ」


「待て! 六花ろっかに何の用だ?」


 サクラは拳を握りしめた。

 六花に何かしたらタダではおかない。しかし浅木博士はあっさりとサクラの闘志を削ぐ返事をした。


「妊娠検査だよ」






 つづく

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