第274話 転移空間・ヴォイド


 サクラは無表情のまま説明する。


「おそらく、本社が望むような空間転移ではない。目に見えない空間の穴——極小のワームホールを使って移動する。我々はこの穴をヴォイドと呼び、この空間から別の空間への移動を研究している」


「成功はしているのか?」


 義久は答えを急いた。そんな彼にサクラは一瞥いちべつをくれると、背を向ける。


「……物質を送る事には、幾度か成功している」


「……!!」


 声にならぬ驚きの声をあげて、義久は口元に手を当てた。


 ——成功しているなら! それをグループ全体でバックアップしてもお釣りがくる。


 しかしサクラは義久ほど楽観的に喜ぶわけにはいかない。彼らに背を向けたまま、そっと指を動かして彼女にしか見えないモニターとコンソールを操作する。


 鬼丸からのメッセージが入っていた。


『六花保護、方舟起動』


 こちらも短くテキストを送る。


『スタッフィー作動』


 これだけで鬼丸には通じるはずだ。


 その動作には誰も気づかなかったようで、義久は再びサクラに質問する。


「どのくらいの質量をどの程度の距離送れたのだ?」


「……まだ、それ程の成果は出ていない。送る場所もまだ安定しない」


 サクラは顔だけ向けて答えたが、今度は浅木博士の方から質問が来る。


「それは物質を小さなワームホールを通すのにどの様に通しているんだい? 原子レベルに分解して、向こうで再構築してるのかい?」


 サクラはゆっくりと首を振る。


「……いや。それは不可能だった」


「おい、それではどうやったと言うんだ⁈」


 またもや義久の声が高くなる。


「ヴォイドの入口を広げる事にした」




「——は?」


 義久は顎が外れるくらいぽかんと口を開ける。


 しばしの沈黙。


 そして頭をぶんぶんと振ると、再び攻勢に出る。


「待て待て待て。そのヴォイドは目に見えないほど小さいのだろう? ましてや触れる事が出来る物なのか?」


「それを捕まえて拡大するのがテラヘルツ光——ただし普通のテラヘルツ光ではない」




 つづく

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