第273話 サクラの実験とは?


「我々が時を超える手段を得たとして、何か不都合でも?」


 サクラがとぼけて言う。


亜人あじんが! 何をする気だ? 歴史の改編か?」


 義久はタブレットを運転手に返し、篠宮の手を振りほどいた。


「自分達に都合の良い歴史を作るつもりだろう?」


「馬鹿か。歴史の改編なぞ、簡単に出来るものではない。時間の持つ修正力の方が強いからな」


 サクラはそうあしらった。浅木博士の方からパチパチと拍手が飛んでくる。


「いいね、サクラ。さすが僕の娘——」


「娘じゃない!」


「僕が遺伝子の設計をしたんだからいいじゃないか」


「断る!」


「うるさい! 僕がコイツと話をしてるんだ!」


「よっくん、サクラさんの事をコイツとか言うなよ!」


 ドカン!!


 サクラの拳がそばにあったスチール製の事務机を二つ折りにぶち割った。ありえない机の惨状に、その場にいた全員が口を閉ざす。サクラがコホンと咳払いをして話し出す。


「……話をまとめよう。浅木は実験の内容の調査に来たのだな? 浅木は我々に用があると言う事だな?」


「正確に言うなら、αIIシリーズのNo.6に用があるんだけどね」


 浅木博士はふふんと鼻を鳴らして答える。


 ——やはり、六花か。


 健康診断で何故再検査になったのか、サクラは聞きそびれていた。出来ればこの男は六花に近づけたくない。


 サクラは義久に向き合うと、『実験』について話し始めた。





「我々が行なっている実験は、時間越えるのではなく、空間を超える実験だ」





「……」

「………」

「…………」

「……………え?」


 ええーッ⁈


 静けさの後に騒然となる職員室。


「ふむ」とだけ頷いたのは浅木博士だけだった。


「ちょっと待て、という事は、物質転送が可能ということか?」


 空間転移が出来るのであれば、輸送、交通、そして軍事に応用できる。義久が食い付いたのも無理はない。Shinomiya にとってどれだけ莫大な利益を生むかわからないのだ。


「距離は? 転送出来る質量は? いや、コストも気になる」


 義久の目つきが変わるのを見て、篠宮は可笑おかしくなった。


「よっくん、何しに来たのさ?」


「ええい、うるさい。それが事実なら、本社はここに投資をするぞ!」


 義久は態度を軟化させ、ネクタイを締め直した。




 つづく

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