第278話 奴が来る


「ふむ、No.6は森へ逃げ込んだようだね」


 日和田ひわだからの連絡を切り、イヤホン型の通信機を外しながら浅木博士はサクラに話しかける。


「逃げ込んだとは心外だな。ただの散歩だろう」


「そんなことを言うなら、No.6をここへ呼び出してくれないかなぁ? アオバヤマ町から出るチャンスだよ」


「どういうことだ?」


「ドイツにある僕の研究所で検査するつもりなんだ。君と同じ自己複製でないなら、なおさら興味あるからね。と一緒に連れて行くかな」


 六花ろっかの身に起きた事が自己複製であるなら、出来損ないの複製クローンなど興味が無い——それが浅木博士の考えのようだ。


「ユニ君も連れて行くんですか?」


 篠宮がうっかり口を開く。


「篠宮、黙っていろ!」


 サクラに怒られて慌てて口に手を当てるが、浅木博士はニヤニヤと笑った。


「ふうん、やっぱりがいるのか。名前は『ユニ』っていうのかい? そんな登録名あったかなぁ」


 首をひねる浅木博士の傍で、義久がどこかへ連絡を入れていた。


「そう、そこまで来ていらっしゃるんだな? そのまま研究所までお連れしろ。ああ、ゲートに着いたら一度連絡をくれ」


 彼は通話を切ると、スマホを胸ポケットへしまう。


「よっくん、誰か来るの?」


「ああ、伯父さん——会長が来る」






「はあ?」


 篠宮とサクラが声を揃えて聞き返した。


「会長?」


「そう、今こちらに向かっている」





 つづく

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