第270話 まあ、お前は良い奴だよ


「サ、サクラさん、それって俺を受け入れてくれたって事ですか?」


 食いつき気味に質問する篠宮に苦笑しながら、サクラは答える。


「一年近く見てきたが、お前は馬鹿で、抜けてて、明け透けで——」


「ちょっと! もう少し違う言い方をして下さい!」


「……そうだな、素直で、信じてくれて、率直で、分け隔てなく我々に接してくれている」


 珍しく褒められて、篠宮は舞い上がる。嬉しすぎてサクラに抱きつこうとする。


「はわわわわ、それって、プロポーズですか⁈」


「違うわ馬鹿タレ!!」


 抱きつこうとした篠宮はサクラの鉄拳をくらい、壁まで飛んで行く。壁に激突すると同時に、職員室の戸が開いた。


「騒がしいね」


 そこに立っていたのは、ニヤニヤと笑う浅木充博士だった。






 一方、旧校舎に逃げ込んだ六花ろっかは迎えに来ていた鬼丸の姿を見て、ほっと息をついた。彼は手招きで六花を奥に連れて行くと、


「しかし、いったいなんだって奴らが来たんだ」


 と、つぶやいた。いつも怖い顔が、なおさら険しくなっている。六花は自分のせいで、本社の人間を呼び寄せてしまったと青ざめた。


 鬼丸は廊下を歩きながら、六花の様子を目にして、いくらか表情を和らげて声をかける。


「サクラがお前を保護しろと言っていた。安心しろ」


 六花はコクリとうなずいて目を潤ませた。それでも自分のせいという自責の念は残っている。


 そこへ——。


「六花!」


一花いちか⁈ なんでここに?」


 教室から顔を出したのは一花とレディだった。たまたま旧校舎に一花もいたらしい。珍しくレディといる一花を見て、六花は目を丸くした。


「六花、無事でよかった……」


 一花はほっとしたように肩の力を抜く。六花は黙っていられなくなって、皆に頭を下げる。


「ごめんなさい、私のせいなの」




 つづく

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