第269話 偽の位置情報


「変わり身ってなんですか?」


 サクラの口の端に浮かんだ笑みを綺麗だなんて思いながら、篠宮は聞く。


「我々の身体には生体端末カリギュラが埋め込まれている。これは便利ではあるが、同時に我々の位置情報を把握される物でもある」


 以前、よっくんが来た時に生体端末を通して亜人デミのみんなが制限を受けたことがあったと、篠宮は思い当たる。


「そう、あの情報管理課の男が来てから、我々はShnomiyaの監視を逃れる為に、生体端末カリギュラをメインシステムから切り離す作業をして来た」


 二度と自分達の身体を拘束されない為の抵抗だ。


「けど、それならよっくん達が気付きそうですよ?」


「その為の身代わりだ。今まで我々の生体端末カリギュラから発信されていた情報を、スタッフィーを擬似ボディとして使用して発信し、監視から逃れた事を知られないようにしたのだ」


「って事は、スタッフィーちゃん達が偽の位置情報を流しているって事ですか!」


「これならすぐには捕まるまい」


 つまりスタッフィーがサクラ達と同じ周波数の信号を発信しつつ、プログラムされた動線を移動してサクラ達がそこに居るように見せかけていたわけだ。


 それからサクラは亜人デミ全員に『警戒せよ』とメッセージを送る。


 受信した方は驚きつつ、対応するに違いない。


 ——それとも、こういう事態が起きた時の行動マニュアルでもあるのかな?


 篠宮は少しだけいつもの疎外感を感じる。こういう時はShinomiya側の人間として扱われるからだ。


「……サクラさん、俺は皆の味方ですよ」


「わかっている」


「サクラさんは疑っているかもしれないですけど、俺は——え? わかってる?」


 篠宮が驚いてサクラを見ると、彼女は珍しく優しげに微笑んでいた。





 つづく

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