第268話 スタッフィー再登場


 黒塗りの高級車は校門から入り、校舎の昇降口の前まで乗りつけた。


 大柄な運転手が先に降り、後部座席のドアをすっと開ける。小さなジャンプをして大地に降り立ったのは浅木博士。義久は反対側から自分でドアを開けて降りて来た。少しイラついたように大きな音を立ててドアを閉める。


 ——全く、何も同じ日に来なくても良いだろうに。


 リムジンの後続のジープからは日和田ひわだ達警備部の部員が降りて来る。物々しく電磁銃を肩からかけているのを、義久は横目で眺めた。


 浅木博士は手をあげて彼等を制止する。


「僕一人でいいって。ちょっと検査するからって連れ出すから」


「伯父さん、勘違いしないで下さい。彼等はあなたの警護も兼ねてるんです」


 甥っ子に諭されて、博士は首をすくめた。相変わらずトレードマークの白衣を着ている痩身の彼は、子どもの頃会った時とそう変わらないように見えた。


「さて、久しぶりに会いに行くとするか」


 博士はそう一人宣言した。





「わわわ、サクラさん。よっくん達が来ちゃいましたよ」


 二階の職員室の窓から外を見て、篠宮が声を上げた。サクラも男達の中に『彼』の姿を見つけて眉を顰める。


「しかもあの男は——」


「あの博士ですよね。『過去』で会った……」


 サクラは篠宮にはうなずくと、すぐに六花ろっかに指示する。


「六花、見つからないように東側階段から降りて旧校舎へ身を隠せ」


「はい」


 六花は緊張した声で返事すると、すぐさま廊下へ飛び出して行った。窓の下を見ると、ちょうど昇降口の前に浅木博士達が移動したところであった。


 サクラはそれを見ながら、生体端末カリギュラで鬼丸に連絡を取る。普通に生体端末カリギュラが使用できるところを見ると、彼等はシステムの制限をしていないようだ。


「鬼丸、奴が来た。六花に関係があるらしい。そちらで匿ってくれ」


『わかった』


 通信を切ると、サクラは右手を軽やかに動かして、見えないコンソールを叩き、システムを稼働させる。


「何をしてるんですか?」


「スタッフィーを動かしている」


 スタッフィーとは亜人デミの皆が使用する、生体端末カリギュラとは別の外部端末で、ぬいぐるみ風の動物の形をしている。


「あの猫ちゃんですか。そういえば最近見ていないなぁ」


「アレには仕事をさせていた」


「仕事ぉ?」


 サクラはディスプレイを消すと、篠宮に顔を向けた。少しだけ悪戯いたすらっぽい笑みを浮かべている。


「我々の変わり身をしてもらっていた」





 つづく

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