第267話 六花の不調


「サクラ先生、何か用ですか?」


 いつもの如く少しぽやっとしながら職員室に入って来た六花ろっかの姿に、サクラはホッとした顔を見せた。


「六花、前回の健康診断で再検査になっていたな? その後、本社から何か連絡はあったか?」


「いえ……血液検査を受けただけですけど」


「最近、体調の変化などないか?」


 それまで不思議そうにサクラの質問に答えていた六花は急に顔色を変えた。


「べっ、別に何もッ」


「何かある答えだな。素直に吐け」


「サクラさん、そんな怖い顔で聞いたら、六花ちゃんも答えにくいですよ」


 篠宮の言葉にハッとしたサクラは慌てて釣り上がった眉を下げる。


「六花、篠宮の所に情報管理課から私的な警告があったのだ。何か心当たりがあれば教えてほしい」


「でも——」


 六花が答えを渋ったその時、篠宮のスマホに町の電気屋さん・常盤から着信が入る。


「もしもし?」


『あっ、篠宮先生? 今うちの電気屋の前を、見慣れないリムジンが通って行ったんだけど!』


「えっ? まさかそれって——」





「ふふん、この町も変わらないねえ」


「そうですか? 十年も離れていれば、変化はありそうですけど」


 黒塗りの高級車から外に流れる景色を楽しそうに眺めているのは浅木博士だ。一方で表情を変えずに答えるのは義久である。


「僕は好きでここから離れたわけじゃないんだよ。目に映るもの全てがあの頃を思い出させるのさ」


「懐かしむのはそれくらいにしてはどうですか。ほら、『学校』が見えて来ました」


 義久が促した目線の先には、『学校』の名を持つ亜人の研究所が見えて来た。





 つづく

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