第266話 招かれざる客



「——やれやれ。ここに来るのも久しぶりだ」


 アオバヤマ町のゲートを黒塗りの高級車でくぐり抜け、警備部の前で車を降りた浅木充——浅木博士は口元を嬉しそうに歪めながら、そう一人呟いた。


 と、反対側のドアからもう一人降り立った青年がいる。こちらは浅木義久——通称よっくんである。


 二人のVIPを迎えに、警備部から走るように出て来たのは日和田ひわだだった。その後に警備員が続々と出て来る。


「おー迎え、ご苦労」


 浅木博士の軽口に、義久は少しだけ眉を顰めるとそれには何も言わずに日和田に向かって声をかけた。


「外にお仲間が待機している。あの方がいらしたら中へ案内しろとのご命令だ」


「はっ、承知致しました!」


 そこへお手上げのポーズをしながら浅木博士が茶茶を入れる。


「おいおい、大袈裟じゃないの? 亜人デミの女の子を捕獲するだけって話でしょ」


「伯父さんは黙っていてください。僕は直々に伺っています」


 義久は自分の仕事は『学校』にて行われる実験について全てを差し押さえる事だと言われている。


 そして伯父——浅木博士には亜人デミの女性についての調査命令が出ている事を把握していた。


 ——別々の仕事に口を出さないで欲しいな。


 義久はこの伯父の面倒を見るのは厄介だと心の中で嘆息した。


「あのう、それで前回のように拘束しましょうか?」


 日和田が気を利かせたとばかりに進言するが、義久はそれを一蹴する。


「君らのガードが甘いから、僕が出て来る羽目になっているんじゃないか。既に例の生体端末へのアクセスは無効化されている」


「……つまり?」


「出来ないんだよ! 全く何をやってたんだ? 生体端末の信号をキャッチするのが関の山など聞いたこともない」


 その話を聞いていた浅木博士はクックックと喉を鳴らして笑った。


生体端末カリギュラか、懐かしいねえ。彼等に金を使わないから、ちゃちなプログラムは破られるんだ」


 日和田は縮こまって恐縮する。


 ——ヤバい。これ以上、失敗したら……。


 頭を下げる日和田の額を、脂汗が流れ落ちた。





 つづく

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