第264話 幕開けは突然に
その日、浅木義久から連絡が来た篠宮は、素直に高速通信に出た。
「どしたの? よっくん、珍しいね〜」
『……相変わらず呑気だな。変わりは無いか?』
「えー? 年末はまあ色々あったけど、特に変わった事は……」
『手短に聞く。大きな実験などしてないだろうな?』
義久は声を落として聞いて来た。
「じっ……けん……?」
篠宮の頭の中をサクラが没頭している『実験』の事がよぎって行く。
勘のいい義久は篠宮の途切れがちな返答にすぐに反応した。
『やってるんだな? アイツら』
「違うって、そんな事な——」
無い、と言おうとして、根が正直な篠宮はまたまた口ごもる。
『つかっちゃん』
義久の口調が変わる。押し殺してはいるが、懐かしい昔の呼び方をする。
『気をつけて。伯父が帰って来た』
え?
と返す間も無く、通話は切られた。
「情報管理課の浅木義久というと、例のアイツか」
義久からの連絡に不安を覚えた篠宮がサクラに知らせに行くと、こちらはこちらで「アイツ」呼ばわりをしている。
「あの拘束された不快感は忘れんぞ」
サクラは眉をキリリとあげて篠宮を威嚇して来た。
「なんで俺を睨むんですか! それよりよっくんの言う伯父さんって——」
「わかっている。浅木充が帰国すると言うのだな」
浅木充——。
遺伝子工学にテラヘルツ変異光を用いて亜人を創り出した狂気の科学者。人体実験の乱用により、当時の研究所所長の鴫原らによって国外へ追放された異端児。
「今更何の為に——?」
「サクラさん、今、学校で大きな実験をしてますよね?」
篠宮の言葉に、サクラは眉を
「大きいかどうかはさておき、この学校では常に研究活動をしている。それがなんだ?」
「よっくんはサクラさん達の実験の事を知ってました。浅木博士もその事を知ってるんじゃないですか?」
サクラはダンッと机を叩いた。
「そんなはずはない! あの実験は——」
そこではたとサクラは気がつく。
「テラヘルツ光の使用量か」
エネルギー消費量の増大に目を付けたのか、アオバヤマ町で何かをしている事に感づかれたと言うことか。
「だがそれだけで浅木博士が戻って来るはずがない。何かあったはずだ——」
つづく
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