第255話 チョコレートは準備中


 一花いちかは納得のいく出来のガナッシュチョコレートをズラリと並べて微笑んだ。


 ——完成。


 ようやく、である。


 完璧に作りたい一花は何度も試行錯誤して、渾身のチョコレートを作り上げたのだ。


 バターと生クリームで滑らかにしたチョコレートを固めて冷やしてカットした物に、コーティング用のチョコレートを纏わせ、さらにデコレーションする。


 そうして出来上がったおよそ百個の中から完璧な出来栄えのものを数個選んで、ラッピングするのだ。


「一花」


「きゃっ! 何よ、驚かさないで」


 二花にかに声をかけられて、真剣にチョコレートを見ていた一花は驚く。


「一花、余ったチョコはどうするの?」


「別に……食べたければ食べてもいいわよ。篠宮先生に贈るのは選んだから」


 二花は「ラッキー!」と指を鳴らす。すると三花みか四花よんか五花いつかが現れた。


「好きにして良いって」


「きゃあ、すごいキレイ!」


「おいしそー」


「お店の物みたい!」


 それから彼女らは一つずつ摘んで口に入れた。四人の顔がとろけていく。


「うう、美味しい〜」


 皆の褒め言葉に、一花もまんざらでもない。鼻高々で妹達を見ていると、彼女達は味見をした後に、何やら小箱にチョコレートを詰め始めた。


「え、ちょっと何してるのよ?」


「私達もチョコレートをあげたい人がいるのよ」


 一花は驚いて「ダメダメ」と怒った。


「これは私が篠宮先生に想いを込めて作ったのよ。それを誰にあげるって言うのよ? もらった方も嫌でしょう?」


「でも私達に食べさせたくれたじゃん」


「それは——」


「美味しいよ、コレ」

「私達だけでこんなに食べきれないもん」

「私達があげたいのは、お世話になってる町の人よ」

「バイト先のカフェの店長さんとか、トキワ電気店のトキワさんとか——」


「むむむ」


 四人に畳みかけられて、一花も唸った。


「い、いわゆる、義理チョコってことね。それなら仕方ないわね」


 しぶしぶうなずく一花に、四人は抱きついた。


「ありがとー、一花!」




 つづく

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