第256話 羨ましく思う気持ち


「ところで六花ろっかは?」


 チョコレートのラッピングを終えた五人は、ダイニングで紅茶を飲んでいた。


 一花いちかは一人いない妹のことを尋ねる。


「さあ? 何も聞いていないけど」

「六花はチョコレートケーキにするって言ってたわよ」

「うう〜ん、明日がバレンタイン・デーだから今夜作るのかな」

「フォンダンショコラなら焼き立ても良いんじゃない? 明日作るのかも!」


「うむむ、フォンダンショコラかぁ。それも考えたのよね」


 フォンダンショコラはチョコレートケーキだが、中からとろっとチョコレートが溢れて来るケーキだ。


 ——そっちにすれば良かったかな?


 一花はちょっとだけそう思ったが、頭をふるふると振って、「いいの、私はコレで勝負よ」と気合を入れる。


「六花は幸せそうよね〜」


「ユニ君といると背景に花が飛ぶの」


 きっとバレンタインも仲良く過ごすのだろう。


 五人は揃って羨まし気なため息をついた。





 有名店のチョコレートの小箱を手にして、レディは自室でぼんやりとしていた。


 ——今年も、無駄になるかしら?


 今まで何度も自分の気持ちを伝えて来たつもりだが、彼は鈍いのか、それとも解ってて遠回しに断っているのか——判然としない。


 レディが我儘を言えば大体は聞いてくれるし、βクラスの為になるならレディに協力してくれる。


 それは同じβクラスの繋がりでしかないのか。


 手の甲に煌めく鱗に目をやり、やりきれない気持ちになる。


 せめて、見た目だけでも人間と同じだったら。


 同じβでも白井ユキや黒羽リリのような容姿に生まれていれば、引け目など感じなかったと思う。


 ——人の感覚からしたら、私の見た目など奇妙でしかないだろう。


 そこでふと、一人だけ物おじせず「綺麗だ」と言った人間がいたと口元が緩む。


「そっちの分も用意すれば良かったかな」


 レディは一人で、くすりと笑った。




 つづく

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