第254話 怒れサクラ


 サクラは激怒した。


 必ずかの変態色魔の篠宮を取り除かねばならぬと決意した——。





 ウォルフが指し示した場所にサクラはいた。そこがどこかと言うと、篠宮がサクラの雪像(スケール1/1モデル)を作った場所である。


 それも一つではない。篠宮の頭の中にある様々なサクラの姿態が立体化されているのだ。


 篠宮は雪像の前にサクラがいるのを見つけると、慌ててシュトルムの肩から飛び降りた。


 こけつまろびつサクラの元へ向かう。


 そのカッコ悪い姿を見送ったウォルフ達は皆一様に胸の中で祈る。


 ——死ぬなよ、先生。




 サクラに近づくと、何故か彼女の周りの雪が溶けているように見えた。


「あっ、あのですね、サクラさん」


 後ろ姿に声をかけたが、サクラは微動だにしない。その代わり、熱い怒りのオーラが滲み出ているのを篠宮は見た。


「サクラ、さん……?」


 ヤバいと思いながらも、満面の笑みでそっと彼女の顔を覗き込む。


「ヒッ!」


 変な声が出る。


 サクラの表情は筆舌に尽くし難いほど怒りに燃えていた。


「し〜の〜み〜や〜……」


「ごめんなさーい!!」





 サクラの鉄拳が飛ぶ。


 ドカッ、バキッ、グチャッ。


 ——グチャッ?


 奇妙な音にウォルフ達がそちらを見たが、あまりの地獄絵図に慌てて目をらす。


「香典はいくらくらい包むものかのう?」


「コウデンってなんだよ?」


「香典というのはね……」


 生徒達の言葉に血まみれの篠宮が叫ぶ。


「勝手に殺すなーッ」


「ほほう、まだ元気なようだな」


 サクラはトドメに、篠宮が作った雪像の一つをいつもの馬鹿力で持ち上げる。


 ずおおお……!


 固めてある為もはや氷塊のそれを高くさしあげると、思い切り篠宮に投げつけた。


「この、馬鹿者ーッ!」


「ギャーッ!!!」





 轟音と共に大地に沈んだ篠宮に背を向けると、サクラは他の雪像を素手で殴りながら壊し始めた。美しいサクラの雪像が次々に破砕されていく。


「まったく、ろくなことをせんな」


 それを見た篠宮は氷塊の下から血の涙を流して叫んだ。


「ああっ、せっかく作ったのにーッ」





 つづく

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