第251話 白狼の咆哮


 鬼丸は自分を追い越さんと、研鑽し続けるシュトルムをずっと見て来た。


 だから、今日の一手は彼の成長をじかに感じたものであった。


 素直に、喜ばしい。


 鬼丸は口の端を上げて、場外へ向かう。驚いたのはその場にいた全員である。


「鬼丸先生……!」


 シュトルムが唸る。鬼丸は雪玉が当たった手を見せて、うなずいた。


「俺の負けだ。よくやったな」


 白い人狼は褒められて喜びの遠吠えをあげた。


 ——やった!


 篠宮は初めてシュトルムの感情に触れた気がした。いつも無表情で物静かな彼が、声を上げて喜ぶ姿はとても新鮮だった。





 鬼丸は雪の防御壁をまともに食らったウォルフを起こしに行く。圧縮された防御壁は氷の塊に近い。ウォルフは人型に戻っていた。


「うう……ひでえよ、先生」


「油断したな。ま、他人ひとの事は言えんが」


 鬼丸は手を引いて起こしてやりながら、ウォルフの上着を探す。人狼になる時に脱いでいたはずだ。はち切れたTシャツは千切れ飛び、今のウォルフは素裸だ。


「寒い……」


「ほら、これを着ろ」


 鬼丸がウォルフの上着を拾って着せてやると、彼は溜息をついた。


「絶対イケると思ったんだよな」


 その本心は、兄のシュトルムに先を越された悔しさである。鬼丸は彼の背を叩いて励ました。


「次は、お前に追い越されるかもな」


「ええ? マジで⁈」


「お前とシュトルムの連携にやられたからな。そうでなければ俺が勝っていた。そうだろう?」


「じゃあ、先生を倒す一番乗りは——」


「お前かも知れんな」


 ウォルフはそう言われて「へへっ」と笑い返した。




 つづく

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