第245話 雪合戦(えぐい方)開始


 五分後——。


「そろそろ始めるか」


 鬼丸の言葉に、篠宮はうなずいて開始の合図を出した。どこから出したのか、ホイッスルを「ピー!」鳴らして、雪合戦の始まりを告げる。


「……」


 しーん。


 静かだ。

 どうやらお互い、様子を伺っているらしい。鬼丸が無言で篠宮に「壁から顔を出せ」と、顎で指示する。


 ふるふると首を振って拒否する篠宮を、鬼丸は目を見開いて威嚇する。


 ——くっそー!


 仕方なく篠宮はそっと、雪かきスコップを雪の壁から出してみた。


 チュイン!


 何かが、風を切って飛んでくる音がして、スコップが弾かれる。


「ぎゃああ!」


 プラスチック製のスコップが欠けている。


「頭を出していたら死んでたじゃないかあ!」


 篠宮の訴えを無視して、鬼丸は一人ごちる。


「今のはシュトルムだな。なかなかの正確さだ」


「聞けよ!」


 鬼丸は騒ぐ篠宮にデカい雪玉を作るように言う。


「ちぇっ、人使いが荒いんだから」




 一方のシュトルムチームは——。


「出てこねえな」


 雪の壁に隠れながら様子を伺うのはウォルフだ。シュトルムは雪玉を手にしながら、顔を上半分出して鬼丸チームの隠れる壁を目視している。


「出て来たら俺がやる」


「いや俺だってやるさ。鬼丸先生を取るのは兄貴だけの目標じゃない」


 シュトルムは目を動かさずに、舌打ちした。


「邪魔するな」


「……そっちこそ。おい、カグラ。雪玉は沢山作ったか?」


 カグラはせっせと雪玉を作っていたが、顔を上げてニヤリとした。


「我も投げるぞ」


「お前の腕力じゃ、あそこまで届かな——」


 ウォルフが話終わる前に、カグラは黒い翼を広げた。大きな翼が雪の上に広がる。


「お前、空から?」


「白狼殿に視線が集まっているうちに、な」


 いたずらっ子のように笑うと、カグラを雪玉をいくつか抱えて、音もなく舞い上がった。





 つづく

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