第235話 依頼人の秘密は守るよ!


 誰への贈り物なのか、ウォルフの注文からはわからない。むしろウォルフのイメージなのかと思うほど渋い色合いだ。


 しかし若者の恋の応援は楽しい。


「良いよ。この花束でお願いします」


 ウォルフは出来上がったイメージフォトにうなずくと、生体端末カリギュラから支払いをする。


「毎度あり。じゃあ、当日の午前中には届くから」


 照れくさいのか、目を合わせないように頭を下げて、ウォルフは立ち去った。


 その数秒後——。


「カエデさんっ!」


「ぎゃっ! ……なんだ篠宮君か。何か用?」


 篠宮とカグラが突如現れ、カエデを驚かした。


「今、ウォルフがお花を注文しなかった?」


「お花——まあ、そうね。花束を——」


 うっかり口を滑らせて、カエデは慌てて口を閉ざす。誰が何を買ったか、口にしないのが商売人のルールだ。だが、篠宮は勢いよく食いついて来た。


「やっぱり! 誰宛?」


「ノーコメント」


「カエデさーん、教えて!」


「ノーコメントだってば!」


 食い下がる篠宮の首根っこをカグラが押さえつける。


「カエデ殿、彼が注文した花束を見せてはもらえぬか?」


 かわいい少年の頼みだが、カエデはニカっと笑いとばした。


「依頼品の事も話さないのが、この店の信用を勝ち取ってるのさ。あたしはShinomiya の奴らが来ても何も言わない。それくらいの気概はあるよ」


「むう、そこまで言われては仕方ない。ここは諦めよう、篠宮」


「ええ〜?」


 カグラに引っ張って連れていかれる篠宮を見送りながら、彼にはしゃべってしまいそうな自分に驚くカエデであった。



 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る