第232話 世界の豆知識


「イギリスではバレンタインデーにカードを贈るんだってな」


 ウォルフはどこから聞いて来たのか、そんなことを言い出した。放課後なんとなく顔を合わせてしゃべっていた篠宮とカグラは「ほう」と感心したように声を洩らす。


「しかしそれがどうした。我々には縁の無いことでは無いか」


 カグラのキョトンとした様子に、ウォルフは「わかってねぇな」と指を左右に振る。


「確かに、俺だって今までは縁は無かった。だが俺の生まれたドイツにもそういう慣習はある」


「ドイツでは何を贈るのさ?」


 篠宮が興味深げに聞くと、彼は待ってましたとばかりに胸を張る。


「俺が調べたところでは男子から感謝の気持ちを込めて、花を贈るそうだ」


「……?」


「鈍いな。男でも贈って良いんだぞ」


「……え?」


 篠宮の瞳にも光が宿る。


「って事は、俺もサクラさんに『日頃の感謝』としてプレゼントしても良いのか」


「そうだ。因みにイギリスの植民地だった香港では同じく男子から花を贈るが、これは愛を込めて贈るんだそうだ」


「そっちがイイ!」


「だよなー!」


 盛り上がるウォルフと篠宮を横目で眺めていたカグラが口を挟む。


「一体誰からそんな知識を吹き込まれたのじゃ?」


「鴫原校長だ!」


「ああ、そうか! あの人、英国紳士っぽいもんな!」


 ウォルフの答えに篠宮もうんうんと納得する。ウォルフは調子に乗ってカグラの額を指で小突いた。


「ま、お前は贈る相手がいねえだろうけどよ」


 わはは、と笑うウォルフに向かったカグラは冷静に言い放つ。


「お主は誰に花を贈るつもりじゃ?」





 つづく

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