第231話 恋せよ乙女


「手作りって、重くない?」


「それも受け売りでしょ?」


「喜ぶ人もいるんじゃない?」


六花ろっかはどう思う?」


 二花にか達に話題を振られて、六花は慌てた。彼女はもちろんバレンタインにはユニに手作りの物を渡すつもりだったからだ。


「わ、私はいいと思う」


 重い?

 うそうそ、そんな事ない。


 六花の返事を聞いた三花みかは羨ましそうにため息をつく。


「そうよねぇ。彼氏なら重くないよね」


「ユニ君は喜んでくれそう」


「結局、相手次第じゃないかしら?」


「篠宮先生は大丈夫よ」


 五人は顔を見合わせると、一人離れて一心不乱にお菓子作りのレシピを検索している一花いちかに目をやる。


「良いわね、恋する乙女って」





「僕は六花ちゃんからもらえるなら、なんでも嬉しいよ」


「なんでもってなによ〜」


 六花は念の為、手作りのチョコレートケーキを贈っても良いか、ユニに確認を取る。ユニは嬉しそうに笑って、六花のそばに座った。


「海外では男子からカードや花を贈るんだって。僕も六花ちゃんにプレゼントしても良いかな?」


「えへへ。もちろんよ!」


 六花も笑いながらユニに寄りかかる。そうしていながら、ふと思い出したように呟いた。


「みんな、変わったなぁ」


「みんな?」


「私達……姉妹みんな」


 以前は一花の統制の元、同一の思考と行動をとっていたものだった。六花はそこからズレていた為、一花によく怒られていた。


「一花は怒らなくなったし——私達をコントロールする事も減ったの。仕事の時はけど」


 それから、二花はカナエと仲良くなった。カナエが懐くのは二花だけだから、どこかに違いがあるのだろう。


 三花も四花よんかも個性が出て来たように思うし、五花いつかは姉妹の中で自分と一番話が合うのがわかって来た。


「私も、自分の意見を言えるようになったよ」


 六花はユニの肩にもたれたまま、目を閉じる。


 ——君のことを好きだって、ちゃんと言えるよ。




 つづく


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