第230話 一花の気持ち


 正月も過ぎてしばらくして——。


 一花いちか生体端末カリギュラを立ち上げると、リマインダーを開く。いつの間にか数件の実験予定が載せられている。


 実験——。


 反射的にサクラの姿を思い浮かべて、ぶんぶんと頭を振る。年末から年明けにかけて、篠宮がサクラの家に泊まっていた事を知った時、思いのほか怒りが湧き上がって来たのだ。


 その後の後悔ともやもやから、自分がサクラにヤキモチを焼いている事を自覚せざるを得なかった。


 ——でも、私はサクラ先生も好き。


 ジレンマだ。


 尊敬するサクラに嫉妬はしたくない。何より勝てる気がしない。篠宮がプロポーズを断られたと聞いて、内心喜んだのも嘘じゃない。


 翌月の予定を確認しようと、ページを進めると二月十四日の日付が目に入る。


 ——バレンタインデー。


 それを目にして、一花はハッとする。


 今まで知識として知っていただけの『バレンタインデー』。


 ——これよ!


 一花は心の中で叫んだ。





「甘い物が好きかって? うん、好きだよ」


 篠宮は二花にかに聞かれて素直に答える。


 二花からその報告を受けると、一花は「よし」とうなずいた。


「どこのお店のにするのよ? アオバヤマ町にはスーパーかカフェくらいでしかスイーツは扱って無いわよ」


 かと言って、外の店の物を欲しがれば、届くのがいつになるかはわからない。


「あとは——カエデさんに頼むくらいしか思いつかないわよ」


 二花は腕組みして首を傾げる。一花は得意げに顎をあげて答えた。


「作るのよ! 手作り!」






 つづく

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