第203話 アオバヤマ町通信網、ダウン!


 義久よしひさが暴走させたドローンは落下速度も味方し、もはや止める事は出来なくなっていた。


 ドローンとサクラの間に割って入った篠宮は、見る間に大きさを増す機械に恐怖心を抱く。


 ——意外と大きい!


 思わず目をつぶる篠宮の顔面をヒュッと風がないだ。


「……あれ? 痛くない」


 恐る恐る目を開けると、鬼丸が片手でドローンを鷲掴みにして、そのまま地面に叩きつけているところだった。


 パチパチと青い電流が走って、エンジンの消えゆく唸りを一声上げると、不審ドローンは機能を停止する。


「ふうー、助かった」





「なんだ? 何が起こった?」


 サクラにドローンをぶつけようとした張本人の義久が、画像が消えたモニターを、抱える様にして慌てる。


 お供の運転手が鼻から大きなため息をつきながら、義久をなだめた。


「御安心を。ツカサ様には当たらずに済んだようでございました」


「そ、そうか……いや、安心している場合ではない。おい、他のドローンから映像は引っ張って来られないのか?」


 日和田ひわだは矛先を向けられて、背筋を伸ばした。


「残念ながら、向こうの中継電波を拾う機能はここにはありません」


「くそっ!……いや、観れなくても構わん」


「と、言いますと?」


「篠宮ツカサが亜人デミに負ける所を他の者に見られなければいい。アオバヤマ町の通信網をダウンさせろ」


「と、言いますと……」


 飲み込みの悪い日和田に、義久はイライラしながら返す。


「ここは独自の通信網を使っているのだろう⁈ それをめろと言っている!」


「しかし、さすがに警備部でそれをやったら——」


「出来るのか、出来ないのかッ?」


 ——うう、若造のくせにすごい迫力だ。


 日和田は義久を止めるのを諦めた。


「……一時的に電波塔への送電を遮断します。テラヘルツ光による全ての通信網を使用不可能にします」


 しぶしぶ日和田がコンソールを動かすと、義久は満足げにうなずいた。





 鬼丸が一機のドローンを破壊した場面を見た大会本部席に緊張が走った。


「不具合でも起きたのですか? 危うく篠宮先生にぶつかるところでしたよ!」


 鴫原校長がモニター席に確認すると、観客席から飛ぶようにして戻ってきたカエデが全ドローンをチェックする。


 しかしログを流しながら、彼女は首を傾げた。手伝っている二花も首を傾げる。


「——どういう事だ? 校長、中継用ドローンは十機すべて正常に作動中だよ!」


 カエデの返事を聞いて、鴫原校長が片眼鏡モノクルを白く光らせた。


「うかつでした。余所者よそものが紛れていたようですね」


 それを聞いたトキワも片手で口元を押さえながら、唸る。


「鬼丸君が壊したのは、同じ機種のドローンでした。もしかしたらこの前やって来た情報管理課の……」


 そこまで呟いた時、モニター画面がフッと消えた。同時に観客席も大型スクリーンも消える。


「なんだ? 停電か?」


 あたりが一斉に騒然とする。


「鬼丸君達と直ぐに連絡を!」


 校長が指示を出したが、カエデから帰って来た返事は——。


「ダメだ、通信システムにエラーが出ている……!」




 つづく

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