第202話 よっくんの暴走


「ぬうう、もう許さん! おい、お前。このドローンに対戦車用ミサイルなどは付いてないのか?」


 モニター観戦していた義久よしひさが、篠宮に対するサクラの仕打ちを見て激昂する。


「あいにく……」


 付いているわけ無いだろ、と胸の中で反論しつつ、ひたすら申し訳なさそうにする日和田ひわだ


 義久はそばに居たドローンの操縦士からコントローラーをひったくった。その所業に、お供の運転手が無言のまま片眉をあげる。浅木家のおぼっちゃまがして良い行動では無い。


「くそっ! どうやって動かすのだ⁈」


 義久は勘でコントローラーを動かす。日和田と操縦士はハラハラしながら見守るが——。





 一機のドローンが突然動きを変えたのを、鬼丸は見逃さなかった。


 それまで一定の間隔を保って空中に静止していたドローンのうちの一機が、フラフラと傾いたかと思うと、サクラ目掛けて落ちて行く。


 ——これが、後から増えたドローンなのか?


 鬼丸は不審なドローンから目を離さずに、それに並走して行く。ついでに自分が地面に置いておいたレーザーライフルを拾ってサクラに渡すが、それを見た篠宮がまたもやヤキモチを焼く。


「あっ、また仲良くしてるッ」


「お前なぁ、これくらいで嫉妬してたら生きていけないぞ」


「鬼丸君が相手だからくんだよ!」


「どうしようもねぇな」


 鬼丸は肩をすくめて再び空を見上げた。釣られてサクラと篠宮もそちらを見る。


「なんだ? ドローンが一機……」


「落ちてきますね」


 落ちて来てはいるのだが、時折フラフラと揺れてサクラを狙って軌道修正しながらやって来る。


「サ、サクラさん?」


「離れていろ、篠宮」


 サクラは数歩右に移動して、ドローンが自分に向かってくるか確認する。それはその都度向きを変えてサクラを標的に捉えていた。





「くっ、この女、逃げる気か!」


 義久はモニター越しに悪態をつく。日和田は「当たり前だ」と心の声でツッコミを入れた。


「あの……ターゲットサイトをオンにすると、目標物を追いますので……」


 ドローンの操縦士が余計な事を言う。案の定、義久は怒鳴り返した。


「早く言え!」


 小さく悲鳴をもらし、操縦士も口をつぐんだ。


「これか? これだな!」


 モニター画面の中で亜人の女性がロックされる。ドローンはその女性に向かってどんどん近づいて行く。


「当たれ!!」


 画面に女性の顔が大写しになった瞬間、割り込む様に間抜けヅラの男が飛び出して来た。


「あああ、つかっちゃん——⁈」


 義久が絶望的な声を上げた。





 つづく

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