第201話 よっくんは観察する


「なんだ今のは? 亜人デミがつかっちゃ……じゃない、篠宮家の後継者に向かって銃口を向けるとは——」


「信じられません! なんと暴力的な生き物なんでしょう!」


 アオバヤマ町ゲート脇にある警備部のモニターで、隊長の日和田は浅木義久にへつらっていた。


 前回の出会いが、義久への服従を決定づけたのである。内心はわだかまりを抱えたまま、日和田は義久の御機嫌取りに徹する事にしたのである。


「浅木課長、この映像だけでも、十分に亜人デミの危険性がわかるというものではありませんか!」


「うるさい。黙っていろ」


 義久はジロリと日和田を睨む。


 だいたいもっと早くこの大会の情報を寄越せば、篠宮ツカサにこんな馬鹿馬鹿しい真似をさせなくて済んだのだ。


 大会の途中から観戦していた義久は親指の爪を噛んだ。


 が、彼は知らない。


 この企画そのものが篠宮発案である事を。それを知ったら義久は更に血圧が上がるに違いない。


 ——少ないとはいえ、人々の前で篠宮家の跡取りが亜人デミに敗北する様を見せるわけにはいかない。


 義久は腕組みをして思案した。





「サクラさん待ってー!」


「待たん」


 問答無用、とサクラはレーザーを放つ。次々と正確に撃ち出すレーザービームは、驚異的な俊敏さを見せる篠宮にかわされて行く。


「ええい、ちょこまかと小賢こざかしい!」


 サクラの手が止まるのを見て、篠宮も一息つく——ところへライフル本体が飛んで来た。苛立つサクラが投げつけたのだ。


 しかもサクラのフルパワー。


 それはもはや投げ付けるというレベルではない。槍の投擲とうてきに近く、無防備に受け止めたら身体を貫通していただろう。


 篠宮は身体をCの字に曲げてやり過ごす。そのままぷるぷると震えながら、訴えてみる。


「サ、サクラさ〜ん、それはないでしょ〜?」




 つづく

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