第198話 やっぱり殴れない


「なんだ今のは?」


 サクラは鬼丸に掴まれていた手をさすりながら、彼を睨む。


 鬼丸の目が泳ぐのを、サクラは不審げに見るたが、それが何故なのか、彼女は気が付かない。


「……悪い」


「仕切り直しか?」


 ファイティングポーズをとるサクラに、鬼丸は苦笑する。


「いや、やめよう」


「は?」


「俺はお前を殴れないって、わかった」


「はぁ?」


 サクラの口から思わずあきれ声が出る。語尾が上がる、疑いの声。


「急に何を言い出すのだ?」


「いや、だから、すまん」


 謝っているが、表情がまるで変わらない鬼丸に、サクラは困惑する。


「???」


「おい」


 鬼丸はサクラの肩に手をかけて抱き寄せた。


「わっ? 何をする⁈」


「しっ。静かに、聞け」


 鬼丸はサクラの耳元に小声で囁いた。


「ドローンが一機、増えている」





「どういうことだ?」


 サクラは鬼丸の意図を瞬時に理解する。中継用ドローンに会話を拾われたり、映像に撮られないよう、口元が映らないようにサクラを抱き寄せて顔を隠しているのだ。


「中継用ドローンは全部で十機だ。こちらに近づいて来る篠宮をフォローしているヤツと俺達の上にあるヤツを足すと十一機」


「一機多いな」


「心当たりはあるか?」


 ある。


 サクラの脳裏に、学校に乗り込んで来たあの男の姿がよぎった。


 情報管理課課長・浅木義久——通称『よっくん』。





 つづく

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