第190話 宴会をした人達


「あっ!校長先生、もう始まってますよ!」


 トキワの声に、鴫原校長はハッと目覚める。カエデが用意した寝袋で、真っ直ぐ行儀良く寝ていた彼はムクリと直角に起き上がる。


「おお、これはこれは。こんな早朝に動きがあるとは、予想外ですね」


 校長が片眼鏡モノクルをかけながら、周りを見回すと、あたり一面寝袋だらけである。


 観客席など飲み散らかした酒瓶と酒の肴のゴミが落ちている。


 ——そう言えば、昨晩は応援に来た町の皆と盛り上がって……。


 鴫原校長は重い頭を抱えて立ち上がる。カエデがどこから調達して来たのか、人数分の寝袋はもちろん、焼肉やら鍋やら出してきて、いつの間にやらビールも日本酒も酎ハイも、飲めない人にはノンアルコールのドリンクやウーロン茶が振る舞われたのである。


「むう……代金は学校のツケにされるのか……?」


 カエデの事だから、酔って朦朧としているうちにデジタル決済でもさせられたに違いない。彼女はそう言う点は抜け目がないのだ。


「校長、早く早く!」


 トキワに急かされるが、校長は酒が残っていて、ゆっくりとしか動けない。


「トキワ君、そんなに慌てなくても……。皆、まだ寝てますし」


「でも、ユキちゃんとユニ君と六花ろっかさんが敗退して、篠原先生をサクラ君が追いかけて、今は一花いちかさんとレディ君が一対一です!」


「一度に多くの情報をよこされた気がしますが、どれどれ……ほう、進展がありましたね」


 校長の声に、モニター席に突っ伏して寝ていたカエデがガバッと起き上がる。


「はっ、寝過ごした⁈」


 口元のヨダレを拭きつつ、カエデは大型スクリーンに一花とレディの戦闘を映し出す。彼女は二花にか達に命じてスクリーンの画面上に変動するオッズを表示出来るプログラムを組ませていた。


「おお、出来上がっているじゃないか」


 画面を見てカエデはニンマリと笑った。


 ちなみに一番人気は鬼丸だ。鬼丸が1.1倍、サクラが2.3倍でレディが2.2倍。残っているメンバーでは、一花は10.5倍で、篠宮に至っては25倍である。


「その篠宮先生に乗りたい人はいないかなァ?」


 絶対に買う奴が出て来る、とカエデはほくそ笑んだ。




「起きろ犬っころ」


 ゲシッとウォルフを蹴飛ばしたのは黒羽リリだ。結局、部屋に帰る帰らないと大騒ぎして、みんなでプールサイドでキャンプのようにテントを張ったりバーベキューをしたりして夜更けまで過ごしたのだ。


「痛ってぇ。……なんすか先輩?」


「校長達が騒いでる。モニターを見てみろ」


「おおっ!レディ先生じゃん!」


 そこへ双子達も起きてきた。




 つづく

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