第186話 夜営・夜半

 焚き火にあたりながら、篠宮はチラッと鬼丸を見た。


 顔は怖いが体格は良く、力も強い。人柄は明るいとは言えないが、真面目で慕われている。おまけに人型になれば結構なイケメンになるし。


 篠宮がそんな事を考えながら見ていたら、目が合った。


「なんだ?」


「べーつーにー。モテるんだろうなって思ってた」


 篠宮の言葉に、心底不思議そうな顔をする鬼丸。彼にしたら、それは人生の基準になっていないのだ。どちらかと言えば彼が重視するのは強さだ。


「お前は何かあれば女子の事ばかり話すな?」


「楽しいでしょお?」


 少しだけ頬を膨らませながら篠宮は反抗する。


「そうか、楽しいのか」


 口元に笑みを浮かべた鬼丸は、やはり怖いのだが、いつもよりどこか優しげである。


「……」


 サクラの事をどう思っているのか聞きたいが、聞いたら引くに引けない答えが返って来そうで、篠宮は無言で木の枝を折った。


 そのまま火に放り込む。


 じわっと火が移って、ぼうと燃え上がる。


「お前が来てから、皆が変わった」


「え?」


 篠宮が顔を上げると、鬼丸は目だけでこちらを見ていた。


「なんというか……動き出した気がする。停滞していた空気が流れ始めたような——」


 それは同時に何処どこかへ向かい始めた事を示している気もする。鬼丸は嬉しさと同時に少しの不安も感じていた。


「不安? 君が?」


「おかしいか?俺だとて自分の置かれた位置は分かっている。このままこの町で朽ちて行くのか、それとも何かに利用されるか、或いは」


 或いは処分されるか。


 口に出そうになって、鬼丸は言葉を切った。


 自分だけならいい。だが、他の者たちはそうならないように護りたい。


 もしかしたら、目の前の細っこくて冴えない男が、その命綱かもしれないと、鬼丸は篠宮を見つめた。


 その視線に、篠宮はハッと気がつく。


「おおお、鬼丸君」


「なんだ?」


「俺、は無いからね!」


「なんの話だ⁈」




 つづく

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