第185話 夜営・宵闇

「あれ?鬼丸君?」


「おう、篠宮先生か」


 独り寂しく焚き火をしていたのは鬼丸であった。


「……」

「……」


 一瞬、今がサバイバル大会中である事を忘れて、二人とも黙ってしまう。


 先に口を開いたのは鬼丸だ。


「まあ、座れよ」


「……撃たない?」


「お前こそ、どうだ?」


「えー、いや、休戦休戦。あー暖かい」


 篠宮は焚き火のそばに腰を下ろす。


「火なんか焚いて、大丈夫なの?」


「別にいいだろ。火事にはならねえよ」


 ——敵が寄って来るんじゃないかな。


 と篠宮は思ったが、夜目の効く鬼丸に挑んでくる者はいないだろうと思い直した。


「ここなら安心して眠れそうだね」


 そう言って篠宮は少し体の力を抜いた。





「あれ?篠宮先生が鬼丸さんと一緒にいる……」


 端末で参加者の位置を確認していた一花いちかが呟く。サクラも画面を覗き込んだ。


「ほう。意外な組み合わせだな。位置情報が動かない事を見ると、休戦中と見える」


「手を組んでくるでしょうか?」


「鬼丸がそういう手を使うとは思わんが……」


 サクラは形の良い顎に手を当てて首を傾げる。


 二人が首を捻っているところへ、六花ろっかが差し入れを持って来た。見ればドライフルーツの入ったみっしりとしたケーキだ。


「えへ、ユニ君が持って来てくれたんです」


 デレデレの六花を横目で見やりながら、サクラはそれを一切れ受け取った。


「……ごちそうさま」





「レディ先生、鬼丸先生達と合流しないんですか?」


 白井ユキに尋ねられて、レディは首を振った。


「やめとくわ。うるさく思われるのも嫌だから」


 その無表情な横顔に少しの寂しさを感じて、ユキは黙って食事の支度をした。支度といっても、クッキーに似た固形食と小さな食パン、それに塗るコンビーフのペースト——それからペットボトルの水。


 夕暮れの中、それぞれがささやかな晩餐を取り始めた。




 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る