第184話 森の中で野宿ですか?


「どうですか?レディ先生」


 白井ユキは暮れていく森の中で、共に行動しているレディに尋ねた。レディは今、熱感知能力を使って敵の位置を探っているのだ。


「んん、そうね。α達はまだ同じ所にいるわね。まだあのバリアを使って身を守っているのかもしれないわ」


 閉じていた瞳を開けると、レディはユキにそう言った。


「以前、カナエがこの森には何か居ると言っていたわね。得体の知れないものが居るとか」


 それを聞いたユキは飛び上がる。


「ちょッ⁈先生、こ、怖い話は嫌ですぅ」


「ふふ、冗談よ。でも、早めにケリをつけたかったわね」


 レディは悔しそうに目を細めた。


「それよりも、このままこの森で寝るんですか?食べ物は携帯食料レーションがありますけど」


 ユキが心細そうに問う。ゲーム開始時に配られたボディバッグにはいろいろ入っていたはずだ。


 小さく折り畳んだ保温シートと簡易寝袋も入っている。


「うう、こんな森の中で寝るなんて思いもしなかったですよぅ」


「そうよねえ。誰かと寄り添って眠りたいところだけど——」


 レディは色っぽい流し目でユキを見た。


「どきっ!わわわ、私は遠慮しておきますよ!」


「馬鹿ね、あなたと添い寝したら、私冬眠するかも知れないじゃない」


 ほほほ、と高笑いすると、レディはしなやかな人差し指を唇に当てて、考え込んだ。





「うわー、暗くなって来たなぁ」


 エメロードを撃破して以来、なりをひそめていた篠宮は森の中をうろうろしていた。


 あいにく篠宮のスマホにはこの森の地図はあるが、他の者がどこに居るかまでは表示されない。


 秋の陽は落ちるのが早く、見る間に夕闇が近づいて来る。


「なんか寒くなって来たかな」


 ——やっぱり謝って、サクラさんの所に行こうかな……。


 夕暮れの寂しさに、篠宮が思わず弱気になった時、遠くに灯が見えた。


 空に立ち上って行く薄い煙が、樹々の間から見え隠れする。


 ——焚き火だ。


 人恋しい篠宮はふらふらとその灯りに近づいて行った。





 つづく

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