第183話 ここは君を守る為の町


 森の中は陽が落ちるにつれ、段々と暗さを増して行く。どうやら明るいうちに決着はつかないようだ。


 ——夜に戦闘ゲームはあるだろうか?


 サクラはぼんやりと青く光る電磁バリアを見つめた。


「サクラ先生、予想よりバッテリーの消費が激しいです」


 一花いちかだ。


 電磁バリアが思いのほか電力をくったのか、それとも先ほどのレーザー砲が電力を消費したのか、持ち込んだバッテリーのランプがLowになりかけている。


「電磁バリアをやめるか?そうすればレーザー砲に電力をまわせるぞ」


「わ、私が決めるんですか?」


 驚く一花にサクラは微笑んだ。


「今日一日、いろいろ決断して来たじゃないか。何を今更——」


「怖いんです。今まではバリアで守られていたから出来たんです……それがなくなっても、私、戦えるでしょうか?」


「……出来るさ。私は、お前達をそんなに弱く育てたつもりは無い。なあ、一花」


 サクラは少しオレンジががって来た風景を眺めながら、一花に話しかけた。今までになく穏やかに。


「はい」


「お前達は、いずれ——この学校……このアオバヤマ町を出る時が来る。ここはお前達を守る殻だ。或いはまゆと言ってもいいか」


「繭……」


「この小さなバリアが無くなるくらいで、おびえるな。新しい世界は我々の想像も及ばない程、荒々しいだろう。我々は皆、この繭から出て行くのだ。怯えるな、一花」


 そして考えるのだ。


「考えて決断をするのだ、一花。今はその練習に過ぎない。失敗しても、構わないのだぞ」


「はい……サクラ先生……」


 そう答えると、一花は電磁バリアの電源を落とした。すうっと青い膜が空気に溶けるように消える。


 六花とユニが突然の事に驚いてこちらを見ている。一花は腹の底から声を出した。


「バッテリーの消費を抑える為、電磁バリアを消します。端末のレーダーだけ機能させて、残りの電力はレーザー砲にまわします」


 その声に、サクラは微笑み返した。




 つづく

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