第179話 カナエが来たりて笛を吹く


 カグラ達の前には電磁バリアにぽっかりと空いた穴が、ようこそと言わんばかりに三人を迎えていた。


 離れた場所から、六姉妹の誰かが走ってくる。四花よんかだ。


 それを見たカナエが横笛を口に当てた。可愛らしい唇を震わせて短い旋律を奏でる。


 それが耳に届いた四花は——。


「きゃあっ⁈」


 何故かバランスを崩して転ぶ。笛を吹いたカナエはニヤリと笑った。


「ふふふ、我の笛は三半規管を狂わすゆえ、もはや我らの勝ちじゃな」


 カナエはカグラにレーザーライフルを撃つように目で促す。お気に入りの『小烏丸こがらすまる』を背中に背負ったカグラがライフルを構えて前に出た。


「すまぬな。所詮は遊戯じゃ、許せよ」


 そう言って、倒れている四花にレーザービームを放った。






 遠目に三花と四花が撃たれたのを見て、一花いちかは慌てた。たった今サクラから連絡が来た所である。


 まさかこんなに早く、バリアが破られるなんて——。


 ネット銃を持った二花にかが一花の脇を走り抜けていく。


「気をつけて!」


「ええ、遠くから三人まとめて狙うから!」


 二花はネット銃が届く飛距離を上げる為、上向きに銃口を構える。


 ——良い位置だわ。


 二花は決断すると素早く引き金を引いた。





 三花と四花を仕留めて、勝ち誇ったように見下ろすカナエとカグラの頭上に、二花の放った捕獲用ネットが広がる。


「む!」


 突然の事に狼狽えるカナエのそばで、カグラが『小烏丸』を抜く。


 銀光がほとばしる。


 目にも止まらぬ速さでカグラが刀を振り、細切れにされたネットが舞い散る中、彼はパチンと刀身を鞘に納めた。


「カグラ君、すご〜い」


 ぱちぱち。


 白井ユキの拍手が飛ぶ。表情の変わらぬカグラであったが、どことなく照れ臭そうだ。反対に妹が頬を膨らます。


「わ、我にだってそれくらい出来るぞ!」


かたな持ってないじゃん」


「うるさい!見ておれ、笛の音で彼奴あやつを調伏してくれようぞ!」


 そう言ってカナエは二花に向かって横笛を構えた。





 つづく

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