第178話 安全地帯のはずでした

 サクラ達がレディの攻撃を受けたのと同時刻——。


 一花いちか達の陣地も襲撃を受けていた。


 始めは何も気付かなかった。


 何より、一花達が持ち込んだポール型の電磁柵はそれぞれを繋ぐように電流が流れる。その時点で陣地を囲む柵が出来上がるのだが、サクラ達がレディに向かった時点で、その電磁バリアをドーム状に変形させていた。


 時折青い稲光を走らせる球状の薄い膜はレーザービームを通さない。更に生物が触れれば、強い電流が流れ、侵入を拒む。


 これで一花達のいる場所はバリアに覆われた安全地帯になるはずだった。


 なるはずだったのに——。




 一番初めに異変を見つけたのは、三花みかである。


 彼女は電磁柵の見回りをしていたのだが、そのうちの一本が白っぽく変化していた。


 恐る恐る近づくと、どうやらそれは霜のようである。


「こんな季節に……?」


 アオバヤマ町が山がちな所にあるとはいえ、さすがに秋口の昼間に霜がつくはずがない。


 三花が見つめているうちに、霜は見る間に大きくなり、電磁柵のポールは樹氷の如く凍りついた。


「ええっ⁈何これ?」


 ポールはチカチカと明滅した後、その光を失い、電磁バリアに穴が開く。


 凍ったポールが機能しなくなったのだ。


「一花——!」


 叫んだ三花の額にレーザービームが届く。ヘッドセットのポインタが、三花の失格を知らせた。


「うそでしょ……」


 呆然と膝をつく三花の前に、カグラ、カナエ、そして霧吹きを持った白井ユキが現れた。


 ユキの手にしている霧吹きを見て、三花はすぐにポールが凍った理由をさとる。


 離れた場所から霧吹きの細かな水滴を風に乗せて吹き付け、それをユキの能力で凍らせていったのだ。


 いや、霧自体が既に氷の粒になっていたのかもしれない。


 三花は悔しげに三人を睨んだが、カナエはそれを鼻であしらった。


「負けた奴はさっさとね」





 つづく

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