第176話 交戦


 サクラは目の前の大木たいぼくを眺める。


 広葉樹だ。


 種類はわからぬが、若葉色の葉も少し黄色く色づき始めていた。その緑一色では無いさまが、かえって目を幻惑する。


 ましてやレディは緑がかった鱗が煌めく肢体をしている。樹の肌に紛れて見えにくいのだ。


 サクラはそっと左耳に手を当て、一花いちかと通信を試みる。


「一花、はまだこの樹に居るか?」


『——っ!先生!やら——』


「一花⁈」


 途切れた通話に驚いた瞬間、大木を挟んだ反対側で、六花ろっかの悲鳴が聞こえた。


「六花!」


 サクラは走り出す。


 大した距離では無い。


 大木の裏側に回り込むと、そこにはレーザーライフルの銃身を持って、六花に襲いかかるレディの姿があった。


「待て!」

「レディ先生!」


 サクラとユニが叫ぶ。


 同時に振り下ろされるライフル——それを二人の間に割り込むように滑り込んだユニが、同じくライフルで受け止める。


 グワシャッ!


 二丁のライフルが粉々になる。そもそも本物の銃では無い。大部分が強化プラスチックで出来ている。


「ユニ!邪魔はやめなさい!」


「——レディ先生、これは……」


 ユニは戸惑う。


「先生、物理攻撃する必要なんて、意味無いでしょう?」


 六花をかばいながら、ユニはレディの前に立ち塞がる。事実、物理攻撃ではポインタは命中判定を出さない。


 鬼丸とシュトルムが組み合ったのは、お互いの了解があったからだ。


「意味は、あるわ——」


 ニヤリと笑ったレディが突如身をひねる。サクラの放ったレーザービームが、しなやかな彼女の肢体を掠めていく。


 同時にレディもハンドガンを抜きサクラに撃ち返す。


 サクラが樹の影に身を隠すとレディもまた飛び退すさって別の樹を盾にした。サクラは無言で背後に控える五花いつかをハンドサインで呼び寄せる。


 その隙にユニは六花を抱えて茂みに身を隠す。茂みに飛び込む二人を、レディのレーザーが追い立てた。


 サクラは一花との通話が切れた事に焦りを感じ、戻るかどうか迷う。


 通話が切れたのは、手薄になった一花達の所へ、カグラ達が攻撃を仕掛けたからだ。


「行かせやしないわ」


 ねっとりとした囁きが頭上から降って来た。


「!!」


 いつの間に移動して来たのか、サクラが隠れた大木に、レディが登っていた。そのまま逆しまにサクラ目掛けて、レディが落ちて来る。


 見上げたサクラの目と上から襲いかかるレディの目が——合った。




 つづく

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