第174話 一花、動く


『シュトルムさん、ありがとうございます』


 エメロードはシュトルムに背負せおわれて、川から森を抜けてプールへと移動していた。結局、ウォルフとリリがどちらも譲らず、シュトルムが迎えに行くこととなったのだ。


 シュトルムはエメロードの為に、丁寧に木影を選んで歩いている。


「気にするな。鬼丸先生と同じ事が出来て、俺は嬉しい」


 それに——と、白き人狼は続けた。


「それに、お前は強い。水がある所なら、誰よりも強かろう」


 シュトルムに褒められて、エメロードは驚くと共に恥ずかしくなる。


 か弱いと言われた事はあるけれど、『強い』と言われた事はなかったからだ。


「俺は、強い奴は尊敬する」


『シュトルムさん、私、嬉しいです』


 エメロードはどこかお日様の匂いのするシュトルムの背に、そっと顔を寄せた。





「サクラ先生!レディ先生も近づいて来ました!」


「何?篠宮は動いていないか?」


 一花いちか達には熱感知能力も音波によるソナーも、狼の嗅覚も無いが、持ち込んだ端末パソコンから各人の生体端末カリギュラの信号を拾って、敵の動きを把握していた。


 篠宮には生体端末カリギュラは付いていないが、代わりに連絡用のスマホを持ち歩いている。その位置情報から居場所を把握していたのだ。


「こちらに向かって来ているのは、βの白井さん、カグラ君とカナエさん、レディ先生です。篠宮先生は動いていません」


「本気を出して来たか?」


 サクラと六姉妹、それにユニの八人は端末を覗き込むと、相手の四人の位置を確認した。


「三人は東側から——レディ先生は西北から来ているわ。合流するつもりかなぁ」


「或いは、我々を挟み撃ちにする気かもな」


「……」


 一花達は顔を見合わせた。瞳に少しだけ不安の色が増してくる。


 しかしそれも数秒の事。


 一花はすぐに判断した。


「少数の方——レディ先生から撃破します!」





 つづく

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