第150話 反対と賛成と


「だいたい、別に好いた男がいるわけでもない。我にはその賞品は必要ない」


 カナエが腕組みしていきどおる。彼女の言い分はもっともである。もっともであるが、篠宮はサクラにキッスしてもらうチャンスと思っている。


「でも逆にカナエちゃんのキッスを望む人もいるかもしれないじゃないか」


「ばばば、馬鹿な!そんな奴はらん!」


 カナエが顔を真っ赤にして怒る。カグラも立ち上がる。


「それにそんな奴は我が許さん!」


「じゃあ優勝して、カナエちゃんを守らないとね」


 にまにまと笑う篠宮の顔を見て、カグラが気がつく。


「まさかおぬし、女子全員から……をいただこうとしとるのではあるまいな?」


「キッス?」


「キッスって言うなー!」


 怒る双子をさて置き、ウォルフとユキは正直「悪くない」と思っている。今まで異性への想いとか恋心とか無縁だった彼らは、好意を寄せる相手へのアプローチなど知るよしもない。せいぜい映像端末スケアクロウの検閲された映画とかマンガとか小説の中の話だと思っている。


「エメたんに——」


「篠宮先生に——」


 キッスとやらをいただくチャンスである。


「はいはい、はーい!賛成!」


 二人は即座に賛成する。


「よし、賛成が増えたぞ。シュトルム君は?」


 今まで特に話に参加していないシュトルムは興味なさそうであった。


「俺はどうでもいい。ただ、勝つことには興味がある」


「よし、じゃあキッスは副賞だ。いらない人はそれでOK」


「ちょっと待て、せめて全員に意見を……」


 カグラが止めようとするが、篠宮は目をハートにして出て行った。呆気あっけにとられるカグラに、ウォルフが話しかけた。


「まあまあ、全員に意見を聞いたらまとまらないだろ。αの六人はたぶん賛成だぞ。反対派の方が少ない」


「篠宮とやらは何を考えているのだ」


「サクラ先生からのキッスかな」


「あのサクラ先生が参加するか?」


 ウォルフはそれを聞いて笑った。


「サクラ先生自身、決まったら参加するって言ってたからな。アイツもわかってやってるだろ」


 何という教師だ——カグラはまた篠宮という人物像を修正した。




 つづく

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