第151話 アオバヤマ的運動会


 秋の行事が決まった。


『秋のサバイバル大会〜生き残った君には勝利の女神からのプレゼント〜』


 学校裏手の森で、サバイバル大会!支給品はサバイバルキット他、携帯食料レーション、緊急連絡用発煙筒。ゲームの為のレーザーライフル及びレーザー銃。


 必要な人はαクラス開発の軽量ナノカーボン製の戦闘用スーツを支給します。


 持ち込めるのは審判・鴫原校長先生の審査をクリアした物品一つのみ。


 それらと己の能力で相手のポインタを狙え!頭部と胸部のどちらかのポインタにレーザー弾を当てられたら失格だ。最後に生き残った優勝者には——。



「優勝者には、アオバヤマ町商店街での一年間食べ放題(デリバリー可)と好きな人からのキッス——……キッス⁈」


 篠宮からの一斉メールを開いた各人は皆一様に驚いた。驚かなかったのは最初から企画に参加していた数名だけ。


 ぽっと頬を染める者、思い切り驚いてコーヒーを吹き出す者、イスから落ちる者——そして、


「ふざけるなぁぁぁぁ!!」


 激怒する者。





「し〜の〜み〜や〜ッ!」


 サクラの怒声と共に職員室の戸が開いた。中にいた篠宮はビクッと跳ね上がる。


「あわわ……」


「何なのだ、あのメールは⁈」


「秋の行事のお知らせ……」


「てへ♪」と誤魔化す篠宮にサクラは新校舎が歪むほどの音量で怒鳴った。


 馬鹿者——!!


「教師という者があのような事を賞品にするなど……恥を知れ、恥を!」


 篠宮の襟元を掴んで締め上げる。


「ぐえ」


「何とか言えッ!」


 そこへ鴫原校長がサクラを止めに入る。


「サクラ君、それでは篠宮先生も話せませんよ」


 首を締め上げられた篠宮はほぼ死んでいた。サクラに吊し上げられたせいか、その死に顔は安らかな笑みを浮かべて……。


「こら、起きろッ」


 ぺしっ、とサクラが篠宮の頭を叩くと、彼はぱっと目を開いた。


「はっ!三途の川が見えました」


「そのままってしまえ!」


「まあまあ、サクラ君。篠宮先生も悪気があったわけでは……いや、悪気か?とにかく生徒達を楽しませようと頑張っているわけですし」


「校長は何でコイツをかばうんですか⁈」


 鴫原校長は篠宮に甘い。サクラは常々そう感じている。甘やかすからこんなとんでもない事をしでかすのだ。


 校長は英国紳士風の髭を摘んで整えながら、サクラの不満を解きほぐそうと答えた。


「いえね、この企画——生徒達は楽しみにしているようなんです」


「ええっ⁈本当ですか?」


「まあ、副賞がやや不適切ではありますが、特にβクラスでは自分の能力を思い切り使える機会に、たいそう興味を持っているそうです」


 そう言われてはサクラも黙るしかない。渋々サバイバル大会を承知する。それを受けて、篠宮は元気を取り戻した。


「サクラさんも参加するんですよね?」


「何で私が」


「企画が決まったら参加するって言ったじゃないですか!」


「う……言った……」


 確かにそう言った、とサクラは自分の参加を認めた。そして喜ぶ篠宮を見ながら頭を抱えた。


「何でこんな事に!」




 つづく

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