第149話 優勝商品は



 篠宮は小気味良い音を立てて黒板に書き出して行く。


 追いかけっこ。

 ハンデを埋める。

 チーム戦も可。


「それからエメロードちゃんとリリちゃんが出て来れる場所か……」


 黒羽リリは直射日光さえさえぎれば、外に出るのは平気なのだが、エメロードはそうはいかない。長時間外気にあたるには、水辺が好ましい。


「やっぱり、プールかなぁ?でもそこにしかいれないんじゃ、つまらないよな」


「はーい」


 ウォルフが手を上げた。


「はい、ウォルフ君」


「川ならあるぞ。北の森の中に」


「えー、知らなかった」


「北の森には滅多に入らないからな。この施設を作る時に、近くの川から水を引いて来た、人工の川だとか」


 子どもの頃行ったきりだと、彼は付け足した。


「森か……」


「もともとは大きな自然公園だったらしいぞ。研究員とか俺達の為の……誰も行かなくなったけど」


 と、いう事はある程度、通り道があったりするわけだ。


 ただ、『森』と聞いてカグラが眉をひそめた。北の森には、夏になるとカナエを狙う者どもがいるからだ。


「カナエ、森は——」


 心配そうなカグラに、カナエは力強く答える。カナエは祭りの日を境に随分と明るくなったし、行動的にもなった。兄から見ると、厭世的な部分がどこかへ行ったようであった。


「大丈夫じゃ。先日の花火で浄化されておる」


「そうか。ならば良かろう」


 カグラはほっとしたようにカナエを見た。


「でも先生、あの森だと、『追いかけっこ』っていうより『隠れんぼ』になっちゃうよ」


 ユキが意見を出す。


 篠宮は黒板に書き足した。


 川がある。

 日陰が多い。

 隠れんぼにもなる。


「はーい、あと賞金が欲しい。賞品でもいいけど」


 ウォルフがニヤニヤしながら手を上げた。


 なるほど、モチベーションに関わるな。


 篠宮は更に書き足した。


 賞品……キッス。


 がたがたがたっ。


 篠宮以外が全員コケる。みんなイスから落ちてしまった。


「ななな、なんなのじゃそれはッ?」


 カナエが顔を赤くしながら立ち上がる。篠宮はニコニコしながら答えた。


「優勝者は好きな人からのキッス。よくない?」


「よくない!!」




 つづく

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