第147話 アオバヤマ町にも秋は来る
秋だ。
「秋ですねー」
篠宮は紅く染まった桜の葉を窓から眺めながら、デスクワークをしているサクラに話しかけた。
最近の彼女は昼夜を問わず、いつもパソコンで何か作業をしている。
「ああ、秋だな」
「……秋といえば、サクラさんは何を思い浮かべますか?」
「……?」
「ほら、読書の秋、とかあるじゃないですか」
「……なんでも良い」
「そんなこと言わずにー。ほら、美味しいものも出てくるじゃないですか」
「じゃあ、食欲の秋で良い」
「色欲の秋?」
ビュッと篠原目掛けてペンが飛んで来た。カッ、と小気味良い音を立てて、彼の後ろの壁に突き刺さる。
危なかった。
篠宮は乾いた笑いで失言をごまかすと、無言で怒っているいるサクラに愛想を振りまいた。
「運動するのも良いですよネ?スポーツの秋、とか」
「……篠宮、私は今、仕事をしている」
「……」
「秋らしい事ぉ?」
篠宮に質問されて、ウォルフは首を傾げた。
「今まで、秋の行事とか無かったの?」
「ねぇよ。なんだよ秋の行事って」
「えー?文化祭とか、遠足とか」
ウォルフは手を振って否定する。ちなみに彼は図書室の映像端末でマンガを読み、知識として『文化祭』や『遠足』を知ってはいるのだ。
「ないない。この少ない人数で何するんだよ。それに出店は夏祭りでやったろ」
「遠足は……無理か。ここからは外出できないしなー」
そこへカナエとユキが通りかかった。ユキは相変わらずミニの着物を着ていて、ほのかな冷気を振りまいている。カナエの方は夏服の上にカーディガンを羽織っていた。
「どうしたんですか?放課後に珍しいですね」
「ユキちゃん、実は——」
篠宮が説明すると、二人も首を傾げる。
「ないの?ハロウィンとかは?」
篠宮が女子ウケしそうな行事を持ってくる。カナエが鼻で笑った。
「似たようなのに囲まれてるから、意外性がないのう。それに死者がうろつくのは、好まぬ」
「ええー?それなら、美味しい物を食べるのは?」
今度はユキが答える。
「それは大好きです!たまにレディ先生が、かぼちゃプリンを作ってくれます」
ちょっとだけうっとりと夢見る目つきになるユキ。しかしカナエはそこまでではないようだ。
「みんな好みがバラバラだなぁ。それに俺がやりたいのは、みんなで出来るイベントなんだよね」
篠宮は腕組みして唸った。
つづく
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