第144話 会議室にて追い詰められる



「それで、浅木課長はどの様なご用件でいらしたのですか?」


 鴫原校長が口を開く。

 あの後、篠宮、サクラ、鴫原校長、それと義久よしひさと運転手は会議室に場所を移していた。


 三対二で向かい合っている。


 義久はブスッとした不貞腐ふてくされ顔で、行儀悪く脚を組んでいる。それでもまだスタイルの良さで絵になる格好だ。


 向かいの篠宮はサクラの隣に座ることが出来て、ニコニコしている。緩んだ締まりのない顔を、義久は忌々いまいましげに睨んだ。


「浅木課長?」


「ああ、ここへ来た用件ですね。……民間のSNSで話題になった事が原因です。——これを」


 義久はタブレットから、会議用のスクリーンへ写真を送った。


「んあ⁈」


 篠宮とサクラが奇妙な声を出した。鴫原校長は声こそあげなかったが、代わりに片眉を上げて驚きを示した。


 そこに映し出された写真は、暗い山間に一つの大きな花火が花開いている瞬間を捉えた物であった。遠くからの撮った物らしく、それ程鮮明ではないが花火と判別できる物である。


「この投稿に付けられた文は『花火?』『どこの打ち上げ?』など半信半疑の物が多く、それ程警戒する物ではないのですが、一部は拡散して地元の区役所や警察に問い合わせがあったという点では——良くありません」


 義久はめつけるように三人を見た。


「——つまりは、その件の確認でいらしたわけですね?」


 校長も片眼鏡モノクル越しに義久を見つめた。彼がどこまで介入する気なのか、見極めなければならない。


 義久は校長に向かって返答する。


「その件、とおっしゃるが、もう一つ確認することがある」


「ではどうぞ」


「まずは花火の件が先です。誰が首謀者なのか、聞かせてもらいたい」


 そこへ「はいっ!」と元気に手を上げた者がいる。もちろん篠宮だ。


「俺が企画しました♪」


 へらっとニヤける彼を、義久は信じられないという顔で見つめた。





 ぽかんと口を開けている義久に、篠宮は『夏祭り』の説明をする。


「——って訳で、アオバヤマ町は町って呼ばれてるけど、厳密には私有地だよね?だから私有地でお祭りしただけなんだってば」


「……」


「よっくん?」


「——何を考えてんだよ、もう!」


 義久は頭を抱えた。この従兄弟はなんでこんなに考え無しなんだ。


「確かにここは私有地だ。飲食や玩具の売買もごっこ遊びと言えなくもない。そもそも関係者以外目にしていないからね。それに花火が問題だと言っているのは、報告のあった十数個の物は許可の要らないサイズの花火だが、この写真に残っている物は少なくとも一尺玉以上の物と推定されている」


「許可?」


「打ち上げ花火の許可がいるんだ。無許可でやったろう?」


 えーと、と頭をかく篠宮を義久は冷たい目で見る。


「知らなかっ——」


「知らなかったじゃない!揉み消すのにどのくらいかかったと思っている。手間も金も!」


「あはは……」


 笑ってごまかそうとする篠宮を義久は更に追及する。


「花火の件はわかった。僕が了解しただけだけどね。もう一点、あの花火を持ち込んだのは君か?」


 ん?


 と、篠宮は答えに詰まって奇妙な顔をした。代わりにサクラが答える。


「彼が花火を持ち込んだ。それを打ち上げただけだ」


亜人デミには聞いていない!」


 義久はピシャリとサクラを制した。目の前にはいるが、義久が話をしているのは鴫原と篠宮であるようだった。


 さすがにサクラも鼻白んで口を閉じた。反対に篠宮が声を上げる。


「そういう言い方しないでってば!」


「……彼女の同席を許したのは、責任を取らせる為だ。それ以外に用はない」


「だから、全部俺がやったの!企画も俺!材料も俺が持ち込んだの!」


 それを聞いた義久の形の良い眉がぴくりと跳ね上がる。


「材料、とは?」


「だからなんとかカルシウムとか——」


 慌てて鴫原校長が割って入る。


「篠宮先生、ちょっと——」


 が、遅かった。


「材料を持ち込んで、爆発物を作った——ということかな?亜人が」


 義久が尻尾を掴んだとばかりに薄く笑った。



 つづく

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