第136話 一つの告白
だからカエデは大人達の役に立とうと、子どもの頃は見た物聞いた物を報告する『密告屋』になっていた。長じてからは『便利屋』だ。
他人が簡単に手に入れられない物を売り渡すことで自分の立場を作っていた。
「失敗作は役に立たないからね。別の形で役立てば存在意義を見出せると、思っていたんだろーな」
カエデの声に合わせて、花火は小さくなり、夕陽色の玉になった。じりじりと揺れている。
「お祭りができたのは、カエデさんが準備をしてくれたからです」
「ぷっ。花火は用意できなかったケド?」
カエデは
その笑顔をよく見ようと篠宮が顔を上げた時、線香花火の玉がぽっと落ちて、真っ暗になった。
「……あたしの方が年上に見えるのはね、テロメアの異常なの」
「てろめあ?」
暗いので篠宮が明かりがわりに手持ちのライターを着けようとすると、それを察したのか、カエデは篠宮の肩を押さえた。
細い手の感触にドキっとする。
「そのまま聞いて。……テロメアは老化に関わる染色体の蛋白質なの。知らない?」
「す、すいません」
染色体ってなんだっけ、と篠宮が焦ると、暗闇の中でまたもやカエデが小さく笑った。
「いいよ。あたしもホントはよくわかってないのさ。あたしはアイツのすぐ後に産まれたテロメア研究の実験体だったんだけど、成長が速くてね。幸い老化症とかじゃなくて、ただ成長スピードが速いのさ」
「……?」
「最初は喜ばれたんだけど、そのうちわかったのはただ生き急いでいるって事がわかっちゃったんだな」
「な、何がダメなんですか?」
カエデの話が全くピンとこない篠宮は聞き返す。
「テロメアの研究っていったら、普通は長生きの研究なの。それこそ不死の研究にもつながるような」
「マジで⁈」
「そうだよ。だから
早死——?
篠宮は耳を疑った。
「まさか」とゴクリと唾を飲み込む。急に周りの気温が下がった気がした。
篠宮の肩に乗せられたカエデの手にキュッと力が入る。
「へへ。心配しないでよ?明日すぐに死ぬわけじゃないんだから。……ガキの頃はアレよりも早く大人になることを喜んでたんだけどね。年頃になるともうダメさ。その先が見えてきちゃう」
その先——。姉であるサクラよりもずっと早く歳を重ねる。サクラが若い時に、自分はもっと歳をとった姿になってしまう。
そんな残酷な事があるだろうか。
そうであればカエデがサクラを
いろいろな意味で。
二人の見た目は比較される。
カエデはサクラの若さに嫉妬する。
辛い、憎い、悔しい。
「カエデさん……」
「おっと、何も言うなよ。同情されたいわけじゃないんだ。ただちょっと——」
カエデは少しためらった後、篠宮にこう言った。
「友達が欲しくてさ」
つづく
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