第130話 それぞれの祭り4
一つ目の花火が打ち上げられた時、サクラはプールサイドに着いたところだった。パーンと音が響いて、小さな花火が夜空に広がる。金の華やかな広がりを見せたそれはひまわりにも似ていた。
一斉に歓声が上がる。
「よかったな、篠宮。お前のおかげで、皆が喜んでいる——あれ?」
後ろにいるはずの篠宮に話しかけたサクラは、振り向いた先に誰もいない事に驚いた。どうやらプールに来るまでの人混みではぐれたらしい。
「ま、いいか」
サクラは次に上がる花火を見逃さないよう、夜空に目を向けた。
「篠宮君、よくもまあ、あんな物を持ち込んだわね」
「ヒィッ!カエデさん⁈」
プールの側の購買部の前で、篠宮はグイッと襟首を捕まえられて転びそうになった。振り返ればサクラによく似た顔にして、別の女性——カエデである。
「こそこそしてあれを作ってたの?」
「……あっ、ほらまた上がりましたよ!」
皆の頭上に、小ぶりながら円を描くのはピンクの花火。キラキラと空中でとどまる星は素人ながらに上手くできていた。
少しの間、篠宮とカエデは空を見上げる。人々の歓声が痛いくらいに聞こえてきた。
カエデは篠宮に聞こえるよう、彼の耳元に口を近づけた。くすぐるような吐息に全身が反応する。が、篠宮は耐えた。
「やるじゃない!あたしの見積もりよりずっと安く出来るなんて、見直したよ!」
まさか褒めらると思わなかった篠宮が驚いてカエデを見ると、ニカっと笑っている。明るい笑顔だった。
こうやってみると、サクラには似ていない。似ているけど、似ていない。
ゆっくりと花火が上がり、また花開く。青と緑の煌めきは誰の作った花火だろう。
「あの……」
「なあに⁈聞こえないよ!」
花火が上がるたびに、歓声と拍手が起こり二人の会話をかき消した。
「ほら、みんなの所へ行きな!!あんたの事待ってるよ!」
カエデは大声でそう言うと篠宮の背中を押した。しかし逆らうように篠宮は動かない。
「?」
「……カエデさんも一緒に行きませんか?」
「……なあに⁈聞こえないってば!!」
確かに聞こえているはずなのに、カエデは篠宮の背をもう一度押すと背を向けて雑踏に消えていった。
その背を向けるわずかな間に、篠宮はカエデの表情に寂しさを見た気がした。
つづく
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