第126話 見知らぬ男の子

 カグラはカナエを探していた。


 夕暮れ時なのに姿が見えないのだ。最近顕著になってきた妹の異変に、カグラは不安を抱いている。


「屋上にも居ないなんて、いったいどこにおるのじゃ?」


 今日の祭りも一緒に同行すれば、異形の者にも対処出来るつもりであった。


「カナエ……」






「お姉ちゃん、何してるの?」


 突然声をかけられ、カナエは驚いた。屋台が遠くに見える旧校舎の影に、誰にも見つからないように一人隠れていたからだ。


「な、なんじゃ、おぬしは?」


 声をかけてきたのは小学生低学年くらいの男の子であった。透き通るような色白の子で、どこか茫洋ぼうようとした顔つきである。


「ぼく?みんなとはぐれちゃったみたい」


「祭りに来たのか。早く行くが良い。皆が探しているのではないか?」


 男の子は人差し指を口に当て、小首を傾げる。


「お姉ちゃんは?誰か探してない?」


「わ、我はちと用事があるのじゃ。祭りには行かぬ」


「じゃあぼくもそこに行きたい」


 カナエは片眉を上げた。目つきが悪くなる。


「おぬしには無理じゃ。さっさと祭りへ行け」


 すげなく断ると、男の子は逆にカナエに抱きついてきた。


「怖いからやだ。お姉ちゃんと行く」


「なっ……」


 むぎゅうとまとわりつかれて、カナエは慌てた。小さい子の相手などした事がない。だがその体の小ささと暖かさが、カナエの警戒心を解いた。


「我の行き先は、屋台を抜けた先じゃ。あの祭りを通り抜ける間は共に居てやろう」


 そう言うと男の子は嬉しそうにうなずいた。そして今度はカナエの手を握った。


「では、行くぞ」


 いつの間にか、カナエを呼ぶ異形の声はしなくなっていた。



 つづく

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