第123話 双子の秘密



 夕暮れの屋上で、カナエは赤い空を見つめていた。細くて夕闇に消え入りそうなくらい儚い肢体からだを風にさらし、ただそこに立っている。


 ——!


 大きな羽ばたきの音を耳にして、カナエは空を見上げた。漆黒の羽根。宵闇の空が明るく見えるほど、その羽根は黒かった。


「カグラ」


 名前を呼ばれた方はゆっくりと彼女のそばに舞い降りて来る。


 双子の兄は少し不安そうな顔をしていた。


「心配するでない。毎年のことじゃ」


 先ほどまでの無表情とは打って変わって、カナエはいつものツンとした態度を見せた。


「そうは言うが、年ごとにお前の力も増してゆく。夏の今頃が一番のではないか?」


 見透かされている気がして、カナエはぐっと言葉に詰まる。


「別に、それほどでもない」


 強がりを言うと、カナエは額に汗を浮かべながら、校舎の北に広がる森に目をやった。陽が落ちかけていて、森は真っ黒に見えた。


 聞こえる。


 何処どこにも解き放たれることのない何者か達の怨嗟の声。それは、人や動物の混じり合った化け物のような姿をとって森から逃れようと、うねり、渦巻き、のたうちながら、カナエ目掛けて手を伸ばす。触手を伸ばす。


 それがカナエに触れる寸前、カグラが隠し持っていた短刀を振り払った。


 森から延びてカナエに触れようとしたそれはたちまち霧散する。


「いるのか?」


「……」


「カナエ!」


 振り向けば紙のように白い顔をしたカナエが脂汗を流して立っている。


「カナエ、おぬしが指示せねば我は刀を振るえぬ!しっかりせよ!」


「……カグラ……我は、もう、あの者らと……」


「馬鹿な事を申すな!この兄が祓ってやるゆえ、気を散らすでないぞ!」


「……聞こえる……生き残った、我等われらを……妬んでおる……」


「カナエ!!」


 カグラは妹を叱咤しつつ、舞を舞う。短刀は本物の刀だ。物の怪を祓う力を宿している。


 彼は妹の為に毎年舞を舞う。


 妹がに連れて行かれないように。





 つづく

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