第122話 篠宮、秘密を聞き逃す



「い、妹?」


 問い返す篠宮に、鴫原校長はズレた眼鏡を直しながら、重々しくうなずいた。どうやら本当のことらしい。


 篠宮はカエデの風貌ふうぼうを頭に浮かべる。


 サクラよりも年上の面立ち。大人びた雰囲気に、年齢としに合ったメイク。それから——。


 ——さくらのほうが、おねえちゃんだもん。


「あっ」


 過去に飛んだ時に出会った幼いサクラは、確かにそう言っていた。だがあの時会ったカエデは、どう見てもサクラよりも年上で……。


 だから、篠宮は幼いサクラの言い間違いだと思い込んでいた。しかしそれが全て正しい事を言っていたとしたら。


「な、なんで見た目が逆転しているんですか……ね?」


 恐る恐る言葉を確かめるように質問する篠宮を見ながら、鴫原校長は口髭を揺らすくらいため息をついた。


「実は——」


 そこへガラガラと音を立てて戸が開いた。サクラだ。


「おい、お前。祭の実行委員会が始まるぞ。商店街のみんなが会議室で待っている」


「あっ!そうだった。今行きます」


 篠宮が慌ててタブレットを抱えて職員室を出て行く。校長の話に後ろ髪を引かれる思いだが、仕方ない。


 走り去る篠宮の姿を見ながら、サクラが首をかしげる。


「校長、何かありましたか?」


「いえ、何も。至って順調ですよ。そちらは?」


「一度、観測機ドローンか何かを送りたいですね。同時進行で土台ファウンデーションを建造中です」


「彼が来たことで計画が早まりましたが、観察したところShinomiyaとは繋がっている形跡はありませんね」


「やれやれ、偶然、閑職に放り込まれたというところですか」


 安心したように言うサクラに、鴫原校長は口髭を撫でながら「油断は禁物ですよ」と釘を刺した。





 夕暮れ時——。


 人気の無い旧校舎の屋上に、細い人影が立っていた。


 あかく染まる空に夜の闇が溶けかけ、時折真っ黒な雲が広い空を席巻せよとばかりに流れて行く。


 赤と黒の広大な空。


 山間の場所ゆえにビルなどのさえぎるものも無い、無限に広がる空間。


 そこに、カナエはセーラー服のリボンを風になびかせながら、一人立っていた。




 つづく

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