第121話 俺は一応、実行委員ですから!


 アオバヤマ町の夏祭り自体は、商店街や篠宮の宿泊する『緑風荘』のオヤジさん達が支度をしてくれたので、学校側としては、場所の提供が主な仕事になる。


 篠宮は学校の敷地が映っているタブレットをグリグリとタッチしながら、どこが良いか考えていた。


 校庭は広くて使い勝手が良さそうだが、広すぎて散漫な雰囲気になりそうだった。人工の町だから、そもそも住人が少ない。寂しい祭りになるくらいなら、旧校舎と新校舎の間の狭い敷地を使った方がかえって賑わいが出るだろう。


「電源も引っ張って来やすいし、その方がいいかな」


 出店は『焼きそば屋』『焼き鳥屋』『かき氷』『クレープ屋』『たこ焼き屋』『くじ引き』『射的』『おもちゃ屋』『水ヨーヨー』の、予定。


『金魚すくい』も案には上がったが、アオバヤマ町は、生き物の持ち込みに厳しいらしい。それに当日までの世話や管理も手がかかりそうだ。


「支払いは生体端末カリギュラとスマホの二種で……売り上げはそのまま担当してくれる商店街の人へ行く事にして……」


 つまりは商店街の各店舗が屋台をそれぞれまかなう形になっている。


 例えば、一花いちかがバイトしているカフェは『クレープ屋』の担当である。クレープだけを売るのではなく、他にもドリンク類やアメリカンドッグなども出す。


 ちなみに機材はレンタルで、発注は商店街だが手配は須王カエデである。彼女の手際は噂どおりで隙なく整えられ、各店舗が、材料を持ってくれば始められるほどであった。


 そして売り上げはそのまま屋台を運営してくれる各店舗に還元する——。


「悪くないよな」


 機材のレンタル代は大人達の持ち寄りだ。つまりはアオバヤマ町内会を形成する元研究員やら職員やらの寄付である。


 この町ではじめてのお祭りらしく、皆乗り気で手伝ってくれる。


「それにしても、今までお祭りがなかったとは……」


「仕方ないでしょう。物品の持ち込みだけはいまだに厳しいんですよ」


「わっ!校長先生、居たんですか?」


「ずっと居ましたよ。ここは職員室です。それにね、正直カエデ君がここまでなんでも揃える事が出来るとは知りませんでした」


 鴫原校長もその点は驚いていた。知っていれば、もっといろんな事を——様々な体験を生徒達にさせてやれたかもしれない。


「とは言ってもカエデさんも『購買部』を始めたのはここ何年かなんでしょう?仕方ないじゃないですか。サクラさんのお姉さんだから、五、六年前くらいですか?」


 篠宮が無邪気に聞くと、鴫原校長はキョトンとして彼を見返した。飾り眼鏡が鼻からずれている。


「あ、ええ。君にはまだ話していなかったですかね?」


「?」


「カエデ君は、サクラ君の妹です」




 つづく

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