第118話 昔の事を今伝えるのは


「何年ぶりだ、その格好は?」


「ちっ、お前か。なりたくてなってるんじゃない。この作業の為になったんだよ」


「ふふ、珍しいな」


 サクラの鬼丸に対しての親しげな様子を見て、篠宮は青ざめる。まさかの伏兵、予想外の展開、諸行無常。


「ちょっと待っ——」


「篠宮先生、ストップ!」


 慌てて二人の邪魔をしようとした篠宮を、白井ユキが後ろから口を塞いで邪魔をする。


「もがもが……」


「ダメですよ、邪魔しちゃ。いい感じじゃないですか」


 声をひそめるユキに合わせて、篠宮も声を低くする。


「いい感じってなんだよ。早く止めないと」


「私、知らなかったなー。お似合いじゃないですか。よく考えれば、小さい頃から一緒に育っているんだし」


 ユキはぽわ〜っとハートを飛ばしながら、恋を夢みる乙女の顔をしている。


「だから、ダメだってば!サクラさんが乙女になったらどうするんだ」


「サクラ先生が誰に恋したっていいでしょう?」


「ヤダよ!」




 一方、サクラは鬼丸と共に『花火玉』の中に『星』入れていた。一尺玉は大きいので、途中で粉状の火薬を足していく。そしてまた更に『星』を並べて行くのだ。


「なんだよ、ニヤニヤして」


「子ども頃のことを思い出していた」


「子どもの頃?さしていい思い出もないがな」


 その中でも、たまには希望を持てる事もあったから、今こうしているのだとサクラは思う。


「そういう考えもあるか」


 鬼丸もサクラの考えを聞いて、少しだけうなずいた。そしてポツリと呟く。


「ガキの頃、俺は自分がお前の騎士だと思ってた」


 え?とサクラが顔を上げると、鬼丸は表情を変えずに手袋を外して、それをそばの机に置いた。


「じゃあな、祭りの当日を楽しみにしてるぞ」


 そして、そう言い残して、鬼丸は理科室を出て行った。サクラは甘い驚きとともにその背中を見つめるしか無かった。



「あああ!ユキちゃんが止めるから、なんか変な雰囲気の二人になっちゃったじゃないか!」


 篠宮が半泣きになりながら小声で訴えると、ユキは人差し指を左右に振って、「ち・が・う」と言った。


「違う?」


「そうです。『変な雰囲気』じゃなくて、『いい感じ』ですっ!」


「それじゃダメなんだってばー!」




 つづく

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