第39話 俺だけですか?

「追い出されちゃいましたね」


「ふふ、まあ……君を紹介できたからいいでしょう」


 校長は微笑んだ。

 篠宮は花見を欠席した生徒の為に、皆と同じ食事を届けに来た校長先生に好意を持った。


 と、同時にこの学校の生徒が皆、鴫原校長の言葉には耳を傾けるのだな、とも思う。


 地下から上がる階段を登りながら、ふと篠宮は聞いてみた。


「校長先生はいつからここに?」


「……かなり前です。それこそサクラ君達が生まれる前から」


「って事は——二十年以上前から⁈」


 篠宮の驚きを横目にちら、と見ながら、校長は眼鏡奥で目を光らせた。


「別におかしくはないでしょう。私はこの町の出入りは自由なんです。貴方あなたもね」


 つまりここに閉じ込められているわけではない。


 そう考えれば、同じ町に二十年以上、住む事は不思議ではないのだ。


「彼らにいろいろなことを教えているうちに、先生になりました。真似事まねごとに過ぎませんが。サクラ君も同様です」


 階段を登り切ると、外の眩しさに目がくらむ。目をぱちぱちさせながら、篠宮は相槌を打った。


「真似事というと……」


「この学校が正式な教育機関ではない事は知っているでしょう。私も『校長』と呼ばれているだけで、教員免許も無い」


「えっ?」


 校長は立ち止まる。廊下の窓から花見の宴が見えた。それを眺めたまま、彼は口を開いた。


「サクラ君も教員免許はない。ここで育ったのだから。つまりきちんと教師になる教育を受けて来たのは、貴方あなた一人です」


 鴫原校長はニヤッと笑うと、頑張ってねと篠宮の肩を叩いた。


 篠宮は青ざめる。


 つまり、俺が採用されたと思ってたのは——。


「親御さんの会社の一つに就職したみたいなもんですかねぇ」


 騙された!





 つづく

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