第6話 2-α組


 怒ってはいけない。


 サクラは多様性を重んじるこの学校の教員である。


 篠宮のようなヘラヘラした男も、個性の一つと認めねばならない。たとえ血圧が上がろうとも。


 彼女は大きく深呼吸すると、本題に戻る。つまりは篠宮のスマートフォンがこの町では使えないという問題だ。


「Shinomiya に発注するから、その端末が届くまで待て」


「えっ?嫌ですよ!そんなの頼んだら何を仕込まれるかわかんないじゃないですか!」


「文句を言うなぁ!」


 ——とは言うものの、それは確かにあり得る事態だ。こちらの動きを知られるのはごめんだ。


「……わかった。スタッフィーを作る前の端末があるはずだ。それを使え」


「やった!楽しみだなぁ」


 心底楽しみだという顔をされて、サクラは毒気を抜かれた。全く調子を狂わせる男だ。


「……新校舎のαクラスから案内しよう」


「六人のクラスですね?あれ?六人でこの校舎全部使ってるんですか?」


「空いている部屋もあるが、ほぼ全て研究機材で埋まっているぞ」


 そう言ってサクラが手近な教室の戸をスライドさせた。


 中は薄暗く、壁一面に大小様々な配管が取り付けられている。クーラーが付いているのか、ヒヤリとした冷気が流れてきた。


「機械のための冷却装置がある。今はいいが、夏場はその排熱で暑くなるぞ」


 暗くて一体何の機械が置いているのか、篠宮にはさっぱりわからなかったが、暗がりの中でグリーンやオレンジの光が震えるように明滅しているのが見えた。


 カラカラと引き戸を閉めると、サクラは篠宮を促す。


 傷だらけのリノリウムの廊下を歩いて行き、階段を上がる。今いたのが校長室と職員室のある二階だから、次は三階だ。よくある学校の作りで、階段脇にはトイレがあった。




「ここが二年生のαだ。と、いうよりαは二年生しかいないがな」


 そう言ってサクラは引き戸を開ける。


「あ、サクラ先生!」


 中にいたのは六人の女子生徒。


 肩まで届くつやつやの髪を切り揃え、大きな瞳は明るい茶色。小柄で華奢な身体を紺色の制服と白衣で包み、清楚で可憐な佇まいの生徒が六人——同じ姿同じ顔でこちらを見ていた。




 つづく

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