第5話 生体端末カリギュラ



「便利ですか?やっぱり慣れですかね?」


 次世代端末と言われているが、自分達が使っているのはおそらく商業ベースには乗らないだろう。


 サクラは簡単にそう説明した。


「商業用に開発されているのは手の甲や手首に端末を埋め込む物になるだろう。私達が使っている物は耳元——耳そのものにチップを埋め込んで操作している」


「画面は?瞳が動いてましたよ」


「……専用のコンタクトレンズだ。そこに端末画面が見えるように作られている」


 そう言ってサクラはしなやかな手を篠宮の前に差し出した。


「自分の手を登録しておく。これは一般的な静脈認証と同じだ。登録しておけばキーボードやフリック入力等と同様に入力作業が出来る。——もちろん簡単な入力なら眼球の動きで可能だ」


「すごい、すごい!俺にも付けてもらえるんですか?」


 浮かれる篠宮に、サクラは冷ややかな目を向ける。


「お前には必要ない」


「えー?」


「この生体認証端末カリギュラはこの町でしか使えないぞ。この町独自のシステムだ。そんなものつけても面白くなかろう」


 いじいじ。

 篠宮はわかりやすくいじける。


「じゃあサクラさんと連絡取るのはどうしたらいいんですか?」


「下の名前で呼ぶな!」


「下の名前しか知らないんですけど⁈」


 篠宮はどやされながらもへこたれない。彼女の連絡先を知る良い機会だ。これを逃す気はない。


「やれやれ……お前の連絡用端末を出せ」


 サクラの方は仔猫のスタッフィーを手に乗せた。


「私達のスタッフィーが別媒体の端末とつながる事ができる。登録しろ」


 篠宮は自分のスマートフォンを出すと、起動させてから戸惑った。どのアプリも「通信エラー」と表示されるのだ。


「あ、あれ?電波マークも出てない」


 サクラは「あ」と呟いた。


「お前、何も知らずにきたのは本当なんだな。この町は独自の通信技術を使用している。——Terahertz-waveというのを知っているか?」


 目が点。


「テラヘルツ……?」


「聞いた事くらいあるだろう。テラヘルツ光だ。電波と光の中間にある——」


 そこまで言って、サクラは口を閉じた。明らかに篠宮の様子がおかしい。

 目が泳いでいるのだ。


 教員であるサクラは知っている。


 この反応は——。


「貴様、持っている教員免許はなんだ?」


「へ?あ、国語ですけど」


「国語……」


 なんだってこの学校に国語の教員がやって来るのだ?いや、そうではない、金持ちの道楽息子が放り込まれただけだ。


 サクラは頭に血が昇るのを感じながら、極めて冷静に分析する。


「お前……理数系の勉強が嫌いだろう?」


「げげっ!なんでわかるんです⁈」


 わからいでか。

 さっきの目が泳いでいたのは理数系への拒否反応だ。彼女の受け持つ生徒にもいないわけではない。


「……」


 思わず目眩を覚え、指でサクラは目元を押さえた。それを見て篠宮は慌ててフォローする。


 自分を。


「いや、あれ?サクラさんはあれでしょ?理系担当でしょ?で、俺が文系担当って事ですよね〜」


「ですよね〜、じゃないッ!」





 つづく

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