第六話 死者を呼ぶ

 子の刻もまわった夜半である。

 庭に白い夜着姿の男がいた。一夜の宿を乞うた男である。桜の大木の根元に立ち、一本の枝を見上げていた。


 月はすでに山の端に没していた。夜空は晴れ、満点の星である。月光には到底かなわぬものの、足元を照らすには十分であった。


 采女の見つめる先に、は在った。

 闇に半ば溶け、時折またたくように色を放つ。色といっても青みを帯びた白色だ。海月くらげのようにふわりと浮かんでは発光し、また光を失っては闇へと沈んでいく。


 しばらく目をこらしていると、それは若い男の姿であるとわかる。目を閉じ、表情を失った顔に帷子をつけ、一目で死者とわかる姿であった。


 さらに時が過ぎるにつれ、少しずつ輪郭が深くなっていった。顔にはわずかな表情が過り、瞼が震え、間もなくその目は開こうとしていた。


 さらに四半刻あまり。

 突然、桜は身悶えするように枝を揺らし、ぽっかりと目が開いた。

 闇である。虹彩のない穴のような眸であった。


 采女はを見上げ、命じた。

「語れ」


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