第六話 死者を呼ぶ
子の刻もまわった夜半である。
庭に白い夜着姿の男がいた。一夜の宿を乞うた男である。桜の大木の根元に立ち、一本の枝を見上げていた。
月はすでに山の端に没していた。夜空は晴れ、満点の星である。月光には到底かなわぬものの、足元を照らすには十分であった。
采女の見つめる先に、それは在った。
闇に半ば溶け、時折またたくように色を放つ。色といっても青みを帯びた白色だ。
しばらく目をこらしていると、それは若い男の姿であるとわかる。目を閉じ、表情を失った顔に帷子をつけ、一目で死者とわかる姿であった。
さらに時が過ぎるにつれ、少しずつ輪郭が深くなっていった。顔にはわずかな表情が過り、瞼が震え、間もなくその目は開こうとしていた。
さらに四半刻あまり。
突然、桜は身悶えするように枝を揺らし、ぽっかりと目が開いた。
闇である。虹彩のない穴のような眸であった。
采女はそれを見上げ、命じた。
「語れ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます