第110話 リベンジと語り合い。
「行くよ」
「おう、来いやぁ!」
隙がねぇ。全くもって、隙がねぇ。
相手は最強。しかも名実共に最強の流派で待ち構える、ジワルドの生きる伝説。
いや、もう死んでるから生きてねぇか。だがとにかく、ジワルドで間違い無く最強だったオレの親友の、最強モードが相手なんだ。
九重流。ジワルドにおいて「運営ってもしかして莫迦なの?」案件の筆頭であり、完全なるバランスブレイカーたる最強スキル。
もしノノンが、今に至る途中で刀の魅力に取り憑かれなければ、間違いなく下方修正待ったナシだった武術スキルだ。
「双閃」
「穗刈り構えッ」
突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀。
現実にある有名な杖術流派に伝わるこの言葉を、過大解釈しまくった末に産まれた壊れスキル。
棒状の武器を扱う流派は基本的に全て、杖術だけで再現してみせるコンセプトの隠し流派。
今もノノンが得意の千刃無刀流の初伝、双閃で襲い来る中、オレは鎌術の基礎で二条一閃の剣戟を受け流す。
つーか千刃無刀流マジで意味が分からねぇ! なんで一振で二条斬れるクソ技が初伝なんだよ! リキャストを考えろクソがっ!
コイツの持ちスキル構成なら初伝なんてリキャスト二秒もかからねぇだろっ!? 壊れ過ぎだろクソがよぉッ!
「クソがっ、瞬刃無双!」
「ふひ、私ぺぺちゃんの瞬刃無双、大好きだよっ♪︎ 瞬刃無双!」
「合わせて来んじゃねぇ!」
ほんの一瞬、たった一瞬だけ、ノノンが持つ
それが攻撃の一瞬だけ鎌の形をとり、鎌術の条件を無理やり満たし、鎌術の初伝をオレに合わせてくる。
マジで意味不明過ぎて乾いた笑いが出てくるぜッ!
オレの戦い方じゃ、鎌の石突きを使った巧みな挙動は叶わねぇ。だからこそ二本で、挟み殺す気で技を放つが、ノノンは涼しい顔して刃を逸らせる。
手応えが気色悪ぃ! 逸らしたにしても、もうちょっとこう、何かあんだろうが!
なんだよ今のっ、水の上を滑らしたような手応えの無さはよっ? オレは今、川でも殴ったのかぁっ!?
「
「させっかよ! 瞬刃無双ッ!」
「いひぃッ♡ ぺぺちゃんのそれ本当好きぃ♡」
「ちぃいいッ! ちょっとは焦れよオラァアッ!」
ハッキリ言う。オレぁノノンと比べればマジで雑魚だ。
二つ名持ちの到達者と比べても、下から数えた方が早ぇ。ノノンの師匠連中なんざ比べるまでも無く、ノノン好き好き連盟の筆頭ヤンデレ莫迦野郎の血沼といい勝負だ。
まぁ流石にアイツには勝てるがよ。あの莫迦、ノノンしか見ねぇからなぁ。
「【ブラッドスローター】には流石に負けたくねぇ!」
「ふぇっ? なんで今、血沼さんの話し?」
「こっちの話しだ! 駆けろ
鎌を刃を背鰭のように構えて突進。本来なら石突きでぶち破る技だが、オレが使うのはやっぱり刃だ。突進の途中で急転換、背鰭で斬るような軌道で動き、ノノンを両断せしめんとする。
「
しかし当たり前に、当たらねぇ。ノノンは音無景見流にある空中を踏む技に、縮地まで合わせてオレの背後に。そして五連抜刀とか抜かしやがる。タイミング的に抜けられねぇなコレ。なら自爆技でッ……!
「《クリシュナ・ナハト》!」
無属性のクソデカ砲撃を地面にブチ込み、その衝撃でノノンの技から逃げる。あれは食らったら死ぬからなぁ。
ありゃぁ、あいつの師匠ものむぐりが得意とするガチの必殺技だ。食らったらマジで死ぬ。
無念夢想流の抜刀術、その初伝から絶招までを連続で使うってだけの技なんだが、ノノンとものむぐりが使うと、最初の一撃を食らうと最後の絶招まで逃げられねぇ。マジでクソだぜ。
「《フルガトリング・フルエイム》!」
「《エアロ・ブラスト》!」
「《キュリアレイス》ッッ!」
「《パイロン・レイ》……!」
無属性連射魔法を爆風で吹っ飛ばされ、闇属性の曲射魔法も火属性レーザーで軒並み切り裂かれる。
まじクソが。魔法の撃ち合いでも勝てねぇ。
そもそも、オレとノノンってバトルスタイルがもろ被りしてんだよな。
STRに差があるとは言え、攻撃力特化で武器に魔法を絡めてブン殴る。その避けタンク系アタッカーとしてのビルドはマジでもろ被りしてやがる。
その癖戦いの練度はノノンに軍配。INTは若干オレが勝っちゃいるが、実の所ほぼ差がねぇ。オレはINT【SSS◆】で成長度限界までINTを上げちゃぁ居るがよ、あいつもINT【SSS+】だったろ確か。
数字にすっと差が五万くらいか? 確かにデカい数字だが、オレもノノンもINT総力が百五十万は有るからな。ぶっちゃけ誤差だろコレ。
そんで、呪文の精度もオレはあいつに勝てねぇ。即席で呪文を組めるとか普通に頭おかしいからな? 普通はテンプレートを見てメモっとくもんだからな?
大きく勝ってんのはMP総量くらいか? それなら確か四十万ほど差があっただろ。
でも、そも呪文の精度で負けてんだから、MP効率で負けてるってこった。つまり実質的なMP総量でも言う程の差はねぇ。
そんで最悪な事に、STRはボロ負けだ。妖精は筋肉つかねぇからよ。HPもオレとノノンはどっちも紙装甲だが、オレが二十八万ジャストで、ノノンが四十七万弱だったか? ぶっちゃけ差がゴミだが、それでも倍の差があるのは事実だぜ。
ちなみにカチ勢の変態筋肉だとHPが百五十万程ありやがる。VITも似たようなもんで、メチャクチャ硬ぇ。
「かぁ、下位互換はつれぇな?」
「あはっ、ぺぺちゃんって私の下位互換のつもりだったの? それはちょっと、私の親友を舐めすぎたよぺぺちゃん。私の大好きなぺぺちゃんは、私程度の下位互換なんかじゃ無いよ、絶対」
褒めてくれるけどよぉ? 実際オレってノノンの下位互換なんだよなぁ。て言うかよ、ノノンはなんでこんな、自己評価が微妙に低いんだろうな?
自分を弱いとは思ってねぇけど、超強い部類だとは自覚してっけど、それでも最強には程遠いと考えて強くなり続けてる最強ってよ、始末に負えねぇよな?
まぁだからって、負けてやるつもりはねぇんだがよ。
さっきはボコボコにされたが、今回は勝つぜぇッ……!
「《
「あはっ、妖精専用詠唱! 久しぶりぃー!」
妖精だけが手に入る欠片の詠唱を始めると、ノノンがメチャクチャ喜びやがる。おまえコレ好きだったもんな?
「《翅は毟られた》《尊厳は潰えた》《ならば立て》《現の園は此処に在る》」
「いひっ、なら私も歌うよ。《闇よ》《夜よ》《儚き深淵》《落ちた帷よ》《閉ざす影よ》《混沌揺蕩う黄昏よ》……」
いぃッ!? ちょ、おまソレ禁呪じゃねぇか! 絶望の庭だろそれ!
クソが、オレのAGIが【S】であいつが【A】だから、バフ積んでねぇなら逃げながら詠唱出来ると思ったのによぉ!
妖精専用の欠片はショートカットに入れられねぇから歌うしかねぇのに、絶望の庭が完成したらぜってぇ勝てねぇぞッ!?
いや待てオレ、アレは【屍山血河】と併用が前提のクソ魔法だ。ならネームドの方を詠唱潰せばまだ何とかなる!
併用しねぇなら絶望の庭はまだほぼ無害! 行ける!
こっちは四十節で終わるがアイツは九十節の大魔法だ。先に歌い終えておもっくそ妨害してやる!
「《裂かれた同胞に泣け》《討たれた
はよ終われオレの詠唱ぅぅう!
「《光よ》《祈りよ》《嗚呼願え》《我が輝跡に》《眩い奇跡に》《祝詞に応えし
あいつの詠唱クッソはぇえなっ!? ホントに下位互換ってのは嫌になるぜ! オレの親友強すぎんだろ!
「《ハプトの翅》《ハプトの歌》《ハプトの涙》《ハプトの
「《灰に混ざり》《杯に溢れ》《剥い削ぎ癒す》《骨は毒》《血は薬》《しかして肉は乾いて腐る》」
詠唱速度が上がってやがるっ。一説負けてるッ。
「《産まれる》《壊れる》《しかして不滅》《我ら妖精》《還る者なり》《
「《笑い》《哂い》《嗤え》《娘は還らず》《
ぃいいいっ、オレが八節歌う頃にゃぁ十二節歌ってるとか嘘だろオイ!? こんなバケモノ相手に魔法合戦とかオレは血迷ったかッ!?
思ったより差が出ねぇぞどうすりゃ良いッ!?
て言うか相変わらず悲し過ぎる詠唱だなぁオイぃ! 娘の聖女さんが犯され孕ませれてボロボロにされてんじゃねぇか聖母さんよぉ! 望まぬ子を自分ごと刺し殺してんぞぉッ!?
「《個々は群れなり》《群れは個であり》《此処は無知なれ》《無恥を恥よ》《忘れた其の名を》《覚えしこの名を》《抱いて嘆く》《掻き抱き笑う》《その刃は何故か》《
ええいクソ、ショトカに頼り過ぎて高速詠唱の練度が落ちてやがるッ。ノノンの詠唱速度に勝てねぇッ。
「《終焉望まぬ
早い早い早い早いッ、頭オカシイだろうがよ! クソが日和らずに殴り合えば良かったッ!
だがコッチはもう終わるぜ! 唸れ妖精の領域!
「《許さぬよ》《許せぬから》《二度と此処には来ないでおくれ》《此処は楽園》《妖精の園》ッ……! 浸れセピアカラー・フェアリーガーデン!」
はよう! エフェクトはよぅ! 出し負けるだろうがはよぅ発動しろやクソがッ!
「《ラトの裁きよ》《ゲナの影よ》《断頭台に死を灯せ》《無限と夢幻》《望みは絶たれ》《最たる罪が一つの
おっしゃ発動しぃぃいいッ!? もう向こう詠唱終わりそうじゃねぇか!?
クソが嫌だ嫌だ絶望の庭と【屍山血河】のコンボは嫌だ!
あれだぞっ、このコンボは悪辣の姫君でノノンが姫公を守りきったガチの最強コンボだぞッ!? こんなんサシの戦いに持ち出すんじゃねぇよ!
オレの最強可愛い親友ちゃんは容赦が無さ過ぎませんかねぇッ!?
「《相反せず》《迎合せず》《なれば混沌》《救いは砕けた》《断末魔は繰り返す》《
あ、マジで九十節歌い切りやがった。マジかよつらっ。妨害もクソも無かったんだが?
いやいやいや、今から【屍山血河】の詠唱に繋がるはずだ! セピアフェアリーで絶対に妨害してやるッ!
「開け絶望の庭ぁあッ!」
「マジで使いやがったコイツぅぅうッ!? せめて範囲絞れよぉッ!?」
「もちろーん!」
オレが発動したセピアカラー・フェアリーガーデンは、簡単に言えば広域のデバフだ。
妖精以外が放つ魔法に秒間でマイナス処理を行って、最終的には無害化しちまう結構な壊れ魔法なんだが、本来は妖精自体が戦えねぇ種族だからな。普通は防御に使ってせっせと逃げる為の魔法なんだよ。
だがオレは【双鎌妖精】。戦いに生きる妖精なんでな、この魔法を戦闘用の魔法を封じて殴り合い為の魔法にさせて貰うぜ。発想で言うとものむぐりの【剣閃領域】に似てるか。あれの魔法版だと思えばいい。
んで、ノノンが使いやがったクソ魔法は、ぶっちゃけ実質的にはなんの効果も無い。パラメーター的にはマジで無害だ。
だが、ジワルドではノノンにこれを発動させて勝った奴は居ねぇ。マジで誰も居ねぇ。それは何故か?
ただひたすら辛いからだ。
この魔法は、本来は拷問系の、NPC相手に使うようなストーリー用の欠片を集めに集めてブチ込んである、ただ相手を苦しめるだけの魔法なんだ。
その本質は『出血』デバフ。『血』と『屍』がトリガーとなってバフを積みまくるノノンのネームドスキルに合わせて、敵も味方もとにかく出血させまくる効果がメインになる。
が、九十節の超大魔法がその程度で終わるわけがねぇんだよな。
これが発動すると、マジで頭オカシイ範囲で超広域デバフのフィールドが発生して、その中に居る『動いてる生物』を対象に、出血、幻痛、酩酊、恐怖、狂乱等など、超大量のデバフを撒き散らすクソみたいな魔法だな。
んで、しかもそれを常時更新し続ける癖に、常時治し続ける魔法でもある。だから詠唱に光属性が混ざってんだ。
「…………ッッぐぅ、やっぱ効くなぁこれはよぉッ」
「いひっ、効くねぇ♡」
無限に呪い、無限に癒す。これが絶望の庭の正体だ。
最大ダメージ量で言えば間違い無くノノンの手持ち魔法で最強。んでもって回復量と解呪性能も間違い無くノノンの手持ち最強の魔法だ。
とにかく無限に苦しめ続け、とにかく無限に癒し続ける。最終的にメリットがほぼゼロになる九十節詠唱って事実すら代償として捧げ、更に威力を上げているクソ魔法。
これを食らうと、数字の上ではマジで無害なんだが、とにかく苦しい。痛てぇし、頭がフラフラすっし、なんか無意味に怖ぇし、暴れ狂いたくなる。しかもそれが毎秒更新され、毎秒治る。マジで頭が狂うぞこんな魔法よ。
そんで、ノノンが【屍山血河】を切ると、この魔法によって無限の出血が発生するから、無限にノノンが強化されるっつぅ、悪魔みてぇなコンボなんだよ。
だから、ノノンにこの次、【屍山血河】の詠唱を成功させちまうと、マジで勝てなくなる。
今もオレの体があちこちブシュブシュと血が吹き出てんのに、次の瞬間には治ってやがる。マジでクソだぜ。超痛てぇ。
オレのセピアフェアリーで毎秒軽減してんのに、そもそも魔法の格が違い過ぎて誤差なの笑うぜ。マジで選択ミスったわ。殴り合えば良かったぜ。
「ふふ、じゃあ行くよ?
「いやさせねぇよッ!? 瞬刃無双ッ!」
四十度の高熱でRTAやってるようなクソテンションで斬りかかるが、詠唱で口が塞がってるノノンはただの技術だけで捌きやがる。
いや、この魔法って範囲内の『動いてる生物』が対象だから、ノノンも対象なんだぜ? なのに、なんでコイツこんな平気そうなん? バケモノ過ぎんだろマジで。
いや、分かってんだよ。ノノンはリアルで痛みに耐性が有りすぎんだ。同じ病院だったからな、こいつの惨状は誰よりも知ってるぜ。
だから、なぁ? オレみてぇに体が動かねぇだけで嘆いてたクソザコナメクジと違って、こいつはリアルだと常に痛みと苦しみに苛まれてたんだ。今更この程度の苦痛なんざ、鼻で笑えるだろうよ。
あーくそ、杖術が上手すぎて斬れねぇ。詠唱が止めらんねぇ。
「滅びを
あー負けたこれ。クソが、禁呪はダメだろうがよぉ。ノノンさんよぉ。マジでよぉ。これ模擬戦だろうがよぉ?
いーやコレも分かってんだよ。こいつメッチャ可愛い奴だからな。オレの事が大好き過ぎて、久々に遊べんのがクソ嬉しいんだろ? テンション上がっちまって、思わず使っちまったんだろ?
あーくそ、そんなん怒れねぇだろうがよ。くそっ、マジでクソ。あーオレの親友可愛いかよっ。
「--発動、【屍山血河】」
はーい負け確でーす。ちくしょうが。
せめてオレのセピアフェアリーのエフェクト見てはしゃいでろやバーカ!
もう、マジでクソ。もう良い。一旦終わって、もうノノンで遊ぶしかねぇぞこれ。
そんで、まぁぶっ殺されたわ。
◇
「まーじーでーくーそーすーぎーるーんーでーすーがー?」
「えへへぇ、ごめんねぺぺちゃん」
「いーや許さん。だからオレを構い倒せ」
「はーい♪︎」
ノノンにボッコボコにされた後、オレはノノンの膝に座って撫で回されてる。場所はノノンの個室だぜ。シル公達は気を利かせて、二人きりにしてくれた。
悪ぃな? 別にオレぁノノンに、欲情はしねぇからよ。そこは安心してくれや。
「ぺぺちゃんふわふわー」
「おう、もっとふわふわなオレ様を撫でまくれよな!」
ふんっ、これくらいはして貰おうか! て言うかよ、オレぁこいつを追って異世界まで来たんだぜ? だってぇのによ、ちょっと放置され過ぎだろ。
いやよぉ、オレもシル公は好きだぜ? ノノンとあいつが毎晩盛ってんのは別に良いんだぜ?
だがオレにも構えよ! 寂しいだろうが! オレぁノノンが好きなんだよ莫迦が! 構え構え!
「えへへ、ぺぺちゃんしゅきぃ」
「ふん、オレもお前が大好きだぜ? だからおら、もっと構えオラッ」
「はーい! でもごめんねぇ? 別に怨みも無いのに、絶望の庭はやり過ぎたねぇ?」
「本当だぜ莫迦野郎ッ! なしてアレ使ったよッ!? あれ、下手したらこの都市丸ごと行けちまうクソ魔法だろうが!」
「テンション上がっちゃってさぁ」
「知ってるよ! でも他にもあっただろうがよ!」
「だってぇ、私ぺぺちゃん好きなんだもぉん」
くそが! 理由になってねぇのに嬉しいから何も言えねぇのマジでクソ!
オレちょっとノノンに甘すぎねぇ? 自覚あんのに直そうと思えねぇの重症すぎねぇ?
「まったく、ノノンはオレの事好き過ぎんだろ」
「うん、私ぺぺちゃん大好きだよ?」
「ぬぐぐ、くそっ。オレも大好きだよバーカ!」
せめて刀使いのコイツだったらまだ、そこそこ良い試合になったのによォ。
「つーか、マジであの犬っころ強くね?」
「ね。
あのクソ親父、オレが動けねぇからって、あんなハゲ達磨を宛てがいやがって。
「はぁ、オレもどっかに、ノノンのシル公みてぇによぉ、かっ拐ってくれる王子様は居ねぇもんかねぇ?」
「ぺぺちゃんって、意外と少女趣味だよね?」
「…………意外か? いや意外か。いや意外か?」
「自分で混乱してるのちょっとウケる」
いやよ、オレもこんな性格だがよ、普通にメスなんだぜ?
そりゃぁオレの悩みをぱぱっと消し去ってくれる王子様が居るってんなら、股の一つも開くぜ?
「つーか、自分の部屋が真っピンクでふりっふりのお前に言われたくねぇよ。この部屋見てみろよ!」
「えー? 私、普通に少女趣味だよ? 和服系装備も基本、ドレスメイクだし?」
「おめぇのは行き過ぎてんだよ。なんだよこの部屋、ラブホかよ」
「ふへ、私もぺぺちゃんも、ずっと病院暮らしだからそんな場所行ったこと無いくせにぃ」
「まーな? でも一般教養だろ?」
「嫌な一般教養もあったもんだねぇ」
「…………まぁ、でも、ちょっとは憧れるよな? ああ言う場所よ」
「わかるぅ♪︎ 私、もしルルちゃん達を日本に連れて行けたら、絶対に連れ込むよ!」
「いや年齢的に無理だろ。受け付けで止められんじゃねぇの?」
「あー、そっか。でも行きたいねぇ。なんか、えっちな場所ってだけじゃなくて、ちょっとロマンチックで素敵だもんね」
「まぁなぁ。はぁー、オレも恋人の一人や二人、現れねぇもんかねぇ?」
「ぺぺちゃん、意外とそう言う願望強いの?」
「人並みじゃね? オレぁガラが悪いだけだぜ? それ以外は普通のメスガキだよ」
「そっか。……もし私が向こうで生きてて、二人とも動けてたら、ラブホ女子会とかしたかったね」
「それちょっと楽しそうな。でもよ、オレらってあの病院に居たから出会えたんだろ? だからそのタラレバは、多分意味がねぇよ」
「…………ふふ、そうだね」
「て言うか、本当にそこで女子会なんてしたら、お前オレに手ぇ出すんじゃね?」
「あ、多分出す! 今はルルちゃん居るから出さないけど、コッチに来なかったイフの話しなら、多分出す!」
「マジかよ。え、マジかよ。冗談で聞いたんだが」
「ぺぺちゃん、私じゃ嫌なの?」
「嫌じゃねぇよ? でも、オレって、お前に対する気持ちって尊敬が強いからよ。ちょっとよく分かんねぇや。手を出されたら嬉しいかも知れんが、自分から欲情は、多分しねぇな」
「え、私、ぺぺちゃんに尊敬されてたの?」
「そうだぜ? 知らなかったのか?」
「知らなかった! ちょっと嬉しい! でも私も、ぺぺちゃんのこと尊敬してるよ?」
「ああそうかい。そりゃありがとな」
「む、ぺぺちゃん適当!」
「うるせぇバーカ、照れくせぇんだよ察しろや。ぬいぐるみぶつけんぞ!」
「あ、私のヘニャリアくん!」
「……………………え、コイツそんな名前なん? て言うかぬいぐるみに名前付けてんの? ちょっと引くわ」
「う、うるさーい! いいじゃん別に!」
「悪ぃ嘘だ。オレもぬいぐるみに名前付ける派だわ。ぬいぐるみ持ってねぇけど」
「ほらやっぱり適当! もう、怒ったよ! 今日のぺぺちゃんはもう、なでなでします!」
「おう撫でろ撫でろ! オレに構えオラァ!」
くっだらねぇ話しが、延々と続く。
だけどよ、オレはコレが欲しくて、ここまで来たんだぜ。
「なぁノノン?」
「にゅ? なぁに、ぺぺちゃん?」
ただ、来てよかった。会えて良かった。オレは素直にそう思うぜ。
「大好きだぜ?」
「…………うみゅ、照れちゃう! 私もぺぺちゃん好き!」
「だが公衆の面前でオレをボコったのは忘れねぇからな。あいつら、多分オレのこと『え、実は弱かったんすか?』とか思ってんぞぜってぇ」
「そんな事言う奴いたら私が斬り刻むよ」
ぉあ、ちょ、急にマジトーン出すの止めろや怖ぇだろが。
「ま、いいか。とりあえず、コレからも宜しくな?」
「うんっ♪︎」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます