第108話 恋神。



 翌日。

 私たちは全員一緒にベッドの上でとても楽しい夜を過ごしました。事案でした。


 いや待って欲しい。私は悪くない。


 だって、代償が! 代償がぁ!


 内心で無様に言い訳をする私。

 バーラから恋濡こいぬちゃん達を受け取ったその日のうちに、叶う限りの検証をした私達は、幼神おさながみの仕様についてある程度の理解を得ていた。

 私はちょっとした理由から、ジワルドに居た頃から既に呪いや代償なんかに詳しかったので、その手の理解も、まぁ早かった。

 検証の結果、幼神おさながみにとって代償とは、自分自身であり、食事であり、娯楽であり、存在意義だった。

 恋濡こいぬちゃんの代償は二日に一回以上の交尾。そして常に感じる発情感。基本的にこの二つだ。

 仮に二日以内とリミットを定められた代償の方を代償限界、常に求められる代償の方を代償欲求と仮称するとして、恋濡こいぬちゃんは契約者である私からこれらの代償を摂取する事で生きている。代償が食べ物なのだ。


「代償、美味しい?」

「--♪︎♪︎」


 自室のベッドの上で、恋濡こいぬちゃんを撫でながら聞いてみる。現在はお昼前で、部屋には私と恋濡こいぬちゃんと恋舐魔こいなばちゃんが居る。

 恋無離こいなりちゃんはルルちゃんとタユちゃんに連れられて、ちょっとお出かけだ。代償の検証はまだ続いているから。

 恋濡こいぬちゃんと恋舐魔こいなばちゃんの代償は、系統が似ているのか代償限界と代償欲求の質も似ているけど、恋無離こいなりちゃんの代償はその二つが直結している。ただ契約者と、条件を満たしている誰かの傍に居る。それだけが代償欲求であり代償限界である。

 これから分かる通り、幼神おさながみと一口に言っても、その代償は様々なのだろう。他の子ならもっと違う代償の形もあるかも知れない。

 ルルちゃんとタユちゃんは、そんな恋無離こいなりちゃんを連れて、どのくらいの距離離れて良いのか、対象が複数の場合は距離に影響するのか、そんな事を検証しに行ってる。

 その間私は、残った二人のお守りである。めっちゃ可愛い。犬耳幼女と兎耳幼女を独り占めとか幸せすぎる。

 

「ふふ、二人ともそんなにとろとろの顔しちゃって。ルルちゃん達が帰ってくるまで我慢してね?」


 幼神おさながみが私に課す代償は、常時発情。恋舐魔こいなばちゃんも似たような物。そして代償とは幼神おさながみから発生する物であり、幼神おさながみ自身も同じ代償を背負ってる。つまり二人も今、まさに今、ハァハァしちゃってる。

 恋濡こいぬちゃんは私をめちゃくちゃにしたいし、恋舐魔こいなばちゃんは私をぺろぺろしたいのだ。


「ごめんね? ルルちゃん居ない時は浮気になっちゃうから」


 私も「幼女可愛い幼女ぐへへへへへ」って感じだけど、ルルちゃんとの約束があるので浮気はダメなのです。浮気はマジでダメ。許されるのはルルちゃん公認の相手と、ルルちゃんが認めた場合にルルちゃんが認めたルールの中でだけ。


「それにしても、二人とも私の事大好きだね?」


 ベッドの上で私にぎゅーって抱き着いて、執拗にスリスリしてくる幼女二人の頭を撫でる。さらさらの髪が心地良い。

 幼神おさながみは武器であり、生き物であり、代償その物でもある。言うなれば『実態を得て生きてる呪い』とでも表現するべき存在だ。

 だから、自分の代償と相性が良い相手に対して、心惹かれてしまう性質があるらしい。バーラから貰った仕様書メールに書いてあった。

 つまり、私たちは相思相愛なのだ。

 恋濡こいぬちゃん達も、初めて世に出されて、最初に契約する相手が最上級に代償と相性が良い私達だった。不安で震えそうだった三人は、それはもう安心したらしい。そしてその分のギャップで私たちにメロメロなのだ。

 いくら代償をぶつけても、代償を要求しても、喜んで支払っちゃう私達。恋濡こいぬちゃんが欲しがればベッドの上で何回でも可愛がるし、恋舐魔こいなばちゃんが欲しがれば好きなだけ飲ませてあげるし舐めさせてあげる。恋無離こいなりちゃんが寂しがれば、何時間だって抱きしめてあげる。迷惑だなんて欠片も思わない。

 黒猫亭は、三人にとっての理想郷。


「ふふ、ずっと一緒に居てね♪︎」


 ふわふわの耳と尻尾を撫で撫でする。めっちゃ手触りが気持ち良い。抱き締める二人が良い匂いする。なんか私も興奮して来た。いや、恋濡こいぬちゃんの代償で既に発情してるんだけどね? 私ってほら、契約前から既にずっと常時発情してたみたいなもんだし、ぶっちゃけいつも通りだよ。

 代償は幼神おさながみ自身。だから恋濡こいぬちゃんがもっともっと強く発情すれば、私にのしかかる代償も強くなるのだけど、まぁ余裕だよね。二十五時間いつでもルルちゃんを食べたい私にとって、常に発情するなんてやっぱり結局ノーリスクなのだ。

 て言うか代償とか呪いとか慣れてるし。私の奥の手って大体そんな感じのヤベー奴だもん。


「はぁ、可愛くてちっちゃくて健気でもふもふでえっちな幼女で、武器で呪い有りで高性能? はわぁ私と相性が良過ぎて逆に辛いぃ……」


 あんまり可愛いから、二人にちゅっちゅして癒される。ルルちゃんからキスはセーフとお許しを頂いてる。

 すると二人はもっと甘い息を漏らして、もっと強く色に濡れる。超可愛い。けどこの先はダメなので、ルルちゃん達帰ってくるまで待ってね。

 それまではぎゅーって抱きしめて、二人をくんくんする。ふわぁ良い匂い……。


「あぁぁああぁあ……、幼女の匂いでガンガンにキマるんじゃぁ……」


 頭が沸騰しそう。獣耳とか髪とか胸とか、思いっきり吸う。深呼吸する。甘い匂いが癖になる。

 あーダメです。ダメですお客様、あー! あーダメですお客様あー!


恋濡こいぬちゃんも恋舐魔こいなばちゃんも可愛いねぇ! はぁ、しゅきっ♪︎」

「〜〜♡」

「……♪︎」


 えーと、なんだっけ。

 そう、幼神おさながみの仕様と代償の検証だった。

 幼神おさながみは代償を私達から食べて生きる。代償その物でもあるから、代償と相性の良い相手には魂レベルで惹かれる。逆に代償と相性が良くない相手をいとう事も。

 幼神おさながみが感じる欲求の強さで、代償の強さも変化する。逆に言うと幼神おさながみ側である程度の代償操作も可能なのかも知れない。本人が代償その物なんだしね。

 それで、幼神おさながみが摂取出来る代償の量に上限は無い。いくらでも食べれる。無限に食い溜め出来る。逆に言うと、無限に食べれるから満足することがない。


「つまり、生来の絶倫…………」


 いや、かなり語弊の有る表現だった。

 恋濡こいぬちゃんと恋舐魔こいなばちゃんは性的な代償を要求されるけど、恋無離こいなりちゃんの代償は「近くに居る」だけだ。絶倫呼ばわりは風評被害か……。


「存在が代償その物だから、代償を摂取して無限に蓄積して、身体を構成するのも代償だから、代償さえ溜まってるなら怪我とかもスグ治る、と…………」


 中々に不思議な生き物だ。

 そう、生き物。武器であり生き物。そして代償であり物質である。

 ふむぅ、研究してぇ…………!


「昨夜は乱れまくっちゃって、ぶっちゃけ検証不十分な感じも有るから、これからも色々と調べさせてね? 嫌な事はしないからさ」


 昨夜は、もう、凄かったのだ。

 端的に表現するなら、『桃色の地獄』だろうか。

 恋濡こいぬちゃんの代償が発情で、恋舐魔こいなばちゃんの代償が舌による接触、つまり相手を舐める事と体液の摂取。そして恋無離こいなりちゃんの代償が「近くに居る事」。近ければ近い程に良い。

 それら全部がシナジーを起こして、なるべくゼロ距離に、なるべく舐め舐めして、可能な限り発情を煽る。

 底無しに代償を回収出来る存在がそんな要求をするなら、私達は肉団子の如くわちゃわちゃと色々し続けるしかない。

 しかも、しかもだよ? 恋無離こいなりちゃんの権能である模倣が、あれ効果が「模倣した効果を貼り付ける」までがセットであり、つまり選んだ相手に好きな能力を貼り付けられたのだ。


 そうすると何が起きるのか?


 私達が全員、「離れると寂しいくて無限にくっ付きたくなる」し、「無限に舐めて飲みたくなる」し、「天井知らずに発情する」体質になるのだ。

 マジで桃色の地獄だった。

 特に、地味に恋無離こいなりちゃんの代償がデカかった。


「まさか、要求される代償が定量じゃないとは…………」


 代償とは、この子達幼神おさながみその物。つまりこの子達が代償を欲する気持ちが強まれば、私達に要求される代償も強まるのだ。

 例えば、恋濡こいぬちゃんの発情って言う代償を緩和しようとして色々すると、まぁ行為によっては更に発情する訳だ。そうなると契約してる私にも影響して興奮が強まって発情感が増す。

 このルールに当てはめると、恋無離こいなりちゃんの代償が強まると、契約者であるルルちゃんは代償の対象である人から一ミリ離れるだけで寂しくなって泣き始めるレベルになる。

 そして権能とは代償とセットなので、権能模倣を使われて恋無離こいなりちゃんの代償を背負わされた私達は、肌が接触して無いと悲しくて死にそうになった。


 まぁ、今ここにルルちゃんとタユちゃんが居ないのはそれが理由だ。


 平常時に、恋無離こいなりちゃんの代償がどれだけの影響なのか、実験しに行ってる。

 どれくらいなら離れても良いのか。距離に応じてどのくらい悲しくなるのか、二人以上の対象が近くにいる場合、その距離に影響が出るのか。

 私達は知る必要がある。

 と言うか、恋無離こいなりちゃんに限らず、この世界に新しく生まれ落ちた存在であるこの子達について、私達は知らなければ成らない。


「ダンジョンから出ても、忙しい限りだなぁ」


 思わず口をついて出た言葉は、自分で聞いても嬉しそうな声音だった。


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